俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
周囲からは凄まじい視線が向けられ、悲鳴のような甲高い声が聞こえてくる。

そのほとんどが女性のものだ。


今さらだがこの人はとても目立つ。

それもそうだろう。


これほど整った面立ちにバランスの取れた体躯の男性はそうはいないし、多くの視線には明らかに熱がこもっている。

そのうえ、こんな公衆の面前で私を抱きかかえているのだ。

注目されないわけがない。


「それこそ好都合だな。未来の妻を介抱していたと発表しようか」

クスクス声を漏らすこの人は本当に策士だ。

まるでこの状況を楽しんでいるかのような副社長に焦りだけが募る。


「詠菜、お前が心配なんだ。頼むから今はおとなしくしてろ」

からかうような口調から一転、真摯な声音に恐る恐る顔を上げる。

そこには軽く眉間に皺を寄せ、気遣わし気な表情を浮かべた副社長の姿があった。

近い距離感と私を抱える、細いのに逞しい腕を改めて意識してしまう。


なんでそんな顔をするの?

本気で私の体調を気にかけてくれているの?


「イイコだな」

力の抜けた私をあやすように、甘い声が耳に響く。

ふわりと緩められた頬にドキンと鼓動がひとつ大きな音を立てた。


「やっぱりお前は可愛い」

ふ、と頭上から落ちてきた穏やかな声に、なんて言えばいいかわからない。


可愛いわけがないのに。


伝わる副社長の体温と鼓動に恥ずかしさと混乱で頭がまわらず、思わず視線を逸らす。

数日前まではまったく知らなかった、関わりもなかった男性。


なのに今はこんなにも近くにいて翻弄されている。
< 48 / 221 >

この作品をシェア

pagetop