俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
雨粒はどんどん大きくなって、激しさも増している。

ふたりの高級そうなスーツに雨の染みが幾つもできていく。


「いえ、お構いなく」

「スーツを汚したお詫びとでも思ってください。傘はバッグに入れっぱなしにしていたのを忘れていたもので余っているんです」


恩をきせるつもりではないと、さり気なくアピールする。

端正な面立ちが少し困惑したものに変わる。


「先ほども申し上げましたが、私に雨水はかかっていませんしお気遣いは不要です」

「このままだとずぶ濡れになって、風邪をひかれますよ」


言葉をかぶせるように言う。

美形男性はほんの一瞬逡巡したような表情を見せ、傘に手を伸ばした。

指さえ綺麗だなんて本当に羨ましい。

目の前でぱっと淡いベージュの傘が開かれる。


「今からどちらに行かれるのですか?」

「私の行き先は気になさらず、傘を持って行ってください。返却は不要ですので」

「いえ、そういうわけには……」


先ほどとは違って、穏やかに返答される。

間近で見るとふたりともずいぶん背が高い。

日本人女性の平均的な身長の私より、頭ひとつ分以上は確実に高い。

ふたりとも百八十センチメートルはゆうに超えていそうだ。
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