俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「お帰りなさい、ずいぶん早かったわね」

玄関先で出迎えてくれた母の姿に副社長との婚約話が頭をよぎる。


「う、うん、ちょっと疲れちゃったから早めに出てきたの」

「あら、大丈夫? 結婚式はどうだった?」

「那奈は綺麗で幸せそうだったよ」

まさかほとんど記憶に残っていないとは言えない。


「詠菜のお友だちは、今年に入ってどんどん結婚しているわねえ」

「そう?」

「あなたもいい加減に彼氏のひとりでもつくりなさい。今日は誰か心惹かれるような男性はいなかったの?」

「えっ、い、いないよ」

まさか今日婚約者ができましたとは言えない。

しかも相手は勤務先の副社長ですなんて告げた日には、母は卒倒するか姉にすぐ電話するだろう。


日野原家のような由緒正しい名家でもない我が家は、基本的に将来の伴侶選びに家族が口を出したりはしない。

きっと私が本気で選んだ男性ならと応援してくれるだろう。


「本当に色恋に無縁な子ねえ」

呆れた声を出しながら、玄関から真っ直ぐ伸びる廊下を母が歩いていく。


廊下の突き当りにあるリビングに入った母の後姿を見送りながら、玄関わきの自室に入る。

小ぶりのバッグをベッドの上に投げ出した時、今日の出来事を親友に報告しなければ、と思った。


でも、今日はもうクタクタに疲れてしまった。

とにかく早くお風呂に入って休みたい。
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