俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「で、でも、私は好きな人と結婚したいんです。時間をかけてお互いを理解して、想いを育んで皆に祝福される結婚式がしたい」

「なんだ、そんなことか?」

「それが一番難しいんです。お互いの信頼だって必要なんですから」

「だったら結婚して、俺と育めばいいだけだろう? 挙式もすればいい」


私が必死の想いで伝えた恋の理想をあっさり受諾される。

とにかくなにもかもが急で、強引すぎる。


なんでも自分の思う通りに事が動くとでも思ってるの? 

人の気持ちはそんなに簡単に動かないし、動かせないんだから。


「俺を好きになれ」

妖艶な眼差しを向けてくる、その態度が癪にさわる。

「なるわけないです! 人の気持ちをなんだと思ってるんですか。そもそもなんで私なんですか? 副社長と私では立場もなにもかもが違いすぎます」


ああもう、イライラする。

この世のどこに好きになれって言われて好きになる女性がいるのよ? 

思い上がりも甚だしい。

これだから目立つ人は嫌いだ。


私が望んでいるのはそんな希薄な関係じゃない。

夫婦には信頼関係が必要だ。

私たちの間にそんなものは一切ない。


「理由、立場。お前、そればっかりだな。そんなに難しく考える必要があるのか? 熟慮して結婚相手を選んだら幸せになれるのか? お前が飲料を選ぶ時はそんな風に選ぶのか? 違うだろ?」

低い声には抗いようのない強さが滲む。


それなのに私を見つめる目はどこか焦燥感を含
んで甘い。

こんなのは反則だ。

断っているのに、この人の言葉を本気で信じそうになってしまう。


こんな夢のような話が現実に起こるはずがないのに。
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