俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「傘を借りたままですし、連絡先がわからないのでは返却のしようもないので追いかけました。まさか同じ目的地だとは」

突然声をかけて驚かせてしまい申し訳ない、と美形男性は困ったように付け加えた。

「いえ、あの、傘は差し上げますので」

「そういうわけには参りません。それに先ほどは助かりました」

穏やかな表情を浮かべる男性は、やはり非常に整った容貌をしていた。

漆黒の長めの前髪は無造作に分けられていて襟足とサイドは短めに整えられている。

切れ長の二重の目と高い鼻梁、薄い唇が信じられないくらい小さな顔にバランスよく収まっている。

俳優やモデルだと言われても違和感がないくらいの華やかな容姿、さらに細身の体躯からのびる手足はとても長い。

まさに洗練された大人の男性という雰囲気。

父譲りの丸い二重の目のせいか、いつも二十八歳という実年齢より幼く見られてしまう私とは全然違う。

「そろそろ終了時刻になりますし、改めて会場の外でお話できませんか」

「えっ……?」


なんの話? 

やっぱりスーツを汚していた、とか? 


弁償、という単語が頭の中に浮かぶ。


……気まずい、できるならば断りたい。


けれど、この状況では断りにくいし第一逃げ場がない。

周囲を見回すと、関係者らしき人が来場者を出口へと誘導している。

この場に留まるのも、無理そうだ。
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