俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす～お前は誰にも譲らない～
連れ立って出口に向かう途中、彼はなぜかすれ違う関係者の人々に頭を下げられていた。

ほかにも数人の女性たちからうっとりするような熱い視線を向けられている。


確かに、見つめずにはいられない極上の外見だよね……。


隣にいる私に向けられる視線が刺さって痛い。


――私とこの人は無関係です！


大声で周囲にアピールしたい。

本当に今日はどこまでもついていない。


迷いのない足取りで彼は右脇奥にある簡易休憩スペースに向かう。

そこには人気がなく、二台の自動販売機と三脚の椅子が無造作に置かれていた。

無意識に自動販売機に視線が吸い寄せられる。

「なにか飲まれますか？」

「あ、いえ。大丈夫です」

「全力で走っておられたので喉が渇いたのではないですか？」

改めて言われると恥ずかしい。

クスリ、と小さな声が漏れる。

小馬鹿にするでもなく、ただただ優しい響きが意外で思わず彼に視線を向ける。

「本当に違うんです。すみません、ちょっと商品に興味があって」

「興味？」

「はい。私、飲料会社に勤務しているので……今、そこの自動販売機でお気に入りの商品を見つけて」

「どの商品ですか？」

「二段目にあるストレートティーです」

「紅茶ですか……どの商品も似たり寄ったりなのでは？」

淡々とした返答に思わず反論してしまう。
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