俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
いくら企画が好評だったとはいえ、未熟な素人同然の私を会社の命運を左右するような重要プロジェクトに参加させるのかと、上層部内でひと悶着あったらしい。

それを押し切ったのは副社長だと耳敏い同期に教えられた。

もし結婚相手だと知られたら彼の立場が悪くならないだろうか。


「……誰かになにか言われたのか?」

ゾクリと背中に痺れがはしりそうな低い声に、慌てて首を横に振る。

握られた左手に力がこもる。


けれど私を見つめる目はなぜか苦しそうに揺らいでいる。

まるで私が傷つくのを恐れているかのように。


「違います、ただそう思っただけです」

「それならいいが……お前は経験は浅くとも知識も実力もある。自信をもって堂々としていればいい。なにかあれば俺が全力で守る」


なんでそんな台詞を簡単に言うの?


左手から手を離した彼が私を広い胸の中にぎゅっと閉じ込める。

胸の奥がくすぐったいような切ないようなもどかしい気持ちでいっぱいになる。

自分の感情がよくわからない。


「本当は区役所で抱きしめたかった。お前は俺の妻だと、周りに見せびらかしたい」

耳元で小さく呟かれて、息を呑む。


「詠菜、俺にも指輪をはめて」

ほんの少し身体を離した彼が自身の指輪を私に差し出す。


私のものより飾りの少ないデザインの指輪をそっと受け取る。

指輪の内側に、緑色の小さな石が一瞬見えた気がした。
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