バレンタインのすれ違い

2月13日 金曜日 17:00

定時を迎えたオフィスではあちらこちらから「お疲れ様でした」のやり取りが聞こえ始め、
やがてオフィスには有中 結と斜め前に座る彼の2人だけになった。

有中 結は、彼がパソコンの電源を切りカバンを持って立ち上がったのを確認すると、
高級チョコレートブランドの紙袋を手に席をたった。

紙袋を握りしめ彼に近づく。
あと、5メートル
今だ!

「せんぱっ……ぃ…………」

「たなかぁぁーーーーーー」

私の声は、斜め前の席の彼、田中さんを呼ぶ男の人の声によってかき消された。

同時にプシューッと勇気がしぼむ音がした

「田中にしては早いじゃん。もしかして、デート?バレンタインイブだもんなっ!」

「まあ、そんなとこ…かな。」

そう言って、田中さんは前髪を触りながら恥ずかしそうに目をふせた。

彼女、いたんだ…
呼び止めなくてよかった。

唯はとっさに持っていた紙袋を隠し、自分のデスクへと戻った。
椅子に座り、紙袋を隠すように自分の足元に置く。

自分の目にはいらないように……。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop