堕天の翼
「ウチも、親、離婚したから…
て、物心つく前から、父親の顔すら知らないけど。」

と、瑞希の方を向いていた視線を…、窓の外へと向け…悠は、呟くように言った…

寂し気な表情…

「…え…?」

再び…、瑞希に視線を戻した悠…

「まぁ…、母が再婚して…成宮の姓になってからは、そういうのもないけど。
子どもなんて…、親の都合で振り回されるから…。それだけ、弱いってことだよ…」

そぅ…、冷めた瞳で言った…

その一言で、悠の中にある…底知れぬ寂しさ…を、感じた…

【そんな事ない】…とは、到底言いきれない…何かを感じた…

「成宮くん、でも…」

そうとは限らない…と、言いかけた時…

すぐ隣の席にいる…瑠樺と雅人がざわつき始めた…

「成宮、あの人…、お前の姉ちゃんじゃない?」

と、雅人が学食で学生たちが溢れる中から、何度か見覚えのある女性のことを指さし、言った…

悠の表情は、先程の柔らかな笑顔とは程遠い…無機質ななんの感情もないような表情…

雅人の指さす方に視線を向ける…

その、人物は、少しずつ…瑞希たちのいる席に近づいてきていた…。。その姿に、悠は、腰をあげかけた…

「こんにちは、皆さん。悠の大学、どんな感じなのか…興味があって…」

そぅ、胸元が空いた黒のワンピースに、高いヒールのあるパンプス…肩先に伸びた髪をなびかせている…

「…こんにちは、お久しぶりです。奈都子さん!」

そぅ、社交辞令的ににこやかな挨拶を返す雅人…。瑠樺は、作り笑いを浮かべながら…会釈を返した…

「そちらのお嬢さんは? 初めて、お会いするわよね?」

と、瑞希に向けられた視線…、瑞希は慌てて腰を上げ…

「鷺森…瑞希です」

「鷺森さん、ウチの弟のこと、よろしくね
佐伯くんも、今野さんも…また遊びにいらして…」

そぅ、にこやかな笑顔を作る…その女性…

「悠、ちょっと来て…。話があるの…静かな所で…」

と、それがごく…当たり前であるかのように…。。彼女は、悠を呼び…2人は、何処かに消えていく…

その、2人が立ち去った後に…、瑠樺は微かに頬を膨らませながら…

「あたし、あの女、嫌い…っ!」

と、明らかに…機嫌が悪くなってしまっていた…

「おい! 成宮の姉さんだろ? 【あの女】って…」

そぅ、穏便にことを済ませようとする雅人…、瑠樺は、その雅人を睨みつけながら…

「お姉さんじゃないじゃん! 血は繋がってないんだもん!
あんな…、自分の都合のいいように呼び寄せて…学校にまで来るなんて、可笑しいっ!
犬かネコじゃないんだから!」

「…な、大きな声で…っ。声、おさえろって…」

瑠樺の発言に。慌てふためく雅人…

その2人の反応に、瑞希も…確かに不信めいたものを感じにずに居られなかった…

「ホントの兄弟じゃないってこと?」

「あー。アイツの家、成宮が中学生の時に連れ子同士で再婚したらしくて。
あの姉ちゃんとは、血の繋がりはないって…
確かに…、瑠樺の言う通り…高校の時も、時々はあぁやって…連れて帰ったりしてたよ。それだけ、成宮のことが大事なんじゃないの?
心配なんじゃない? アイツ、時々…体調悪いって休んだりするから…」

「あー、もぅ! 絶対、あの女…成宮くんここと、狙ってるゎっ!
働けないってのも、ワケ分からないっ!」

「瑠樺ー、ないだろ? それ? 兄弟だぞっ
働けない…って。。しょうがないだろ? あの姉さんも、病気なんだから…」

その、2人の話に…、瑞希は、悠の胸元や首筋にあったキスマークの跡を思い出した…

「……っ」
《…いゃ、だって…

義理とは言っても…、兄弟でしょ?

でも、血の繋がりはない…みたいだし。。


でも…、さっきの…あの瞳…、怖かった…

一瞬だけ…、氷のような…冷たさを感じた…




何か…、いゃ! 何が嫌か…なんてのは、分からないけど。。

なんか、苦手だ…あの人…っ》

瑞希は、その脳裏に、今朝…、電車の中で、悠に抱き締められた時のことを思い出していた…

あの一瞬は、
2人だけの…【秘密】…なのだから……



2人の話によると…、悠の姉の奈都子は、過去にも今日のように悠を呼び出すことがあったと言う…

それも、突然…とのことだ…

悠も、それに逆らうことは、1度もないと言うのだから…不思議な話だ。。

何か…、あるのではないか…?…と、感じずにはいられないような空気感を感じた…


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