堕天の翼
「成宮くん…」
《…あ。ここ、大学からも近いし…寄るか…なんて、考えもしなかった…》


「…ここで、バイト、始めたの?」


その声は…、聞き覚えのある…、聴きたかった…人の…、愛しい声…


一瞬にして…、胸元が熱くなる…

自分でも…、気が付かないウチに…涙が溢れだしそうになっていた…

「…鷺森さん…っ」

「あ。。ごめんなさい…。カバーしますか?」

声が…、震えてる…。顔を合わせることも出来ない…

「いゃ、いいよ。」

悠は、少しも…動揺していないのか?…と、思えるくらい…冷静な声音だった。。瑞希の目の前に1500円を差し出した…

瑞希は、無言のまま…お釣りを差し出した…

「…今月から…始めたの…」

「本、好きだもんね?
今日、この作家の新刊出るから…。て、知ってるよね?」

その、変わらない笑顔と、その声に…瑞希は、頷き返した…

胸の鼓動が、収集がつかないくらいに…、早く…苦しい…

「バイト、何時に終わる?」

「……っ」

瑞希は、一瞬…言葉を失った…

思わず…、顔を上げ…悠の顔を見上げる…

何を、言っているのか…?…分からなかった…

あんな場面を、見せられて…。。平静で居られるはずはない…

今までとは…、確実に…変わってきているはずなのに…


瑞希は、首を左右に振り…

「遅くなるから…、たぶん。何時に…なんて、言えない…」

と、言ったきり…悠から背を向けた…

「そ…。じゃ、あっちの茶店で待ってる…。話があるんだ…」

悠は、踵を返し…、店の外へと出ていく…

瑞希は、そ…っと、振り返り…。。店外に出ていく悠の後ろ姿を見送った…

すぐに、人混みに掻き消えていった…が。。

どんな、人の中に紛れていても…分かる…

「……っ」
《どうしよう…、

私、やっぱり…っ

彼のこと…、好きなんだ…》


そぅ、思った…瞬間…。。その唇を噛み締めた…

溢れだしそうになる涙を、堪える…


「……っ」
《…逢いたい…っ!

今すぐ…っ!


彼に…、抱き締めて欲しい…っ


でも、それは………っ


永遠に…、叶えられないこと…っ》


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


本屋は、いくらでもあった…

彼女の好きな作家の新刊が発売される…と、言うのは、本当に口実だった…


数日前…、悠は雅人から、瑞希が最近、本屋でのバイトを始めた…と、聞いていた。。

雅人から、何処の本屋なのか…、聞き出していたのだ…

雅人や瑠樺も、瑞希と悠の間に何があったか?…などということは、気づいてすらいない…

ただ、雅人は、悠も瑞希のことを意識していることは気づいているようだった…


悠は、瑞希のバイト先の本屋があるテナントビルの通り沿いの喫茶店で、その店内の様子が伺える場所でアイスコーヒーを口にしていた…

先程、購入したばかり…の小説を読んで…、時間を潰そう…としていた…


が、瑞希のことが気になって…、読みたかった本のことなど、どうでもよかった…

もし、彼女に避けられる…こととなったら…

あの後の自分の気持ちの変化は…?


「……」

何を、話そう…と、するのか?

自分の過去? 姉との関係…っ?

それとも…、瑞希のコトが好きだと言うことだろうか…?


何を話そうとしても…、言い訳にしか取られないかとしれない…

彼女がいるだろう…本屋のテナントの方を眺めながら…、重苦しいため息をついた…

今までのように…、何も…、なかった…と、言うことにしてしまえば…済むかもしれないことだった…

それは…、今まで自分が他人にしてきたことと…同じことだ…

が、彼女のことは、それまで遠ざかっていった人たちとは比べものにならない程、心を奪われた…というのが事実だった…


それに…もぅ…、姉の奈都子の言うがままに、生きているのは、生きている…という心地もしなかった…

ただ…、奈都子の思うがままに…扱われる…
人形のように…、


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