堕天の翼
「…え…?」
《私が見た時は、奈都子さんについては、なにも…》

瑞希は、そのスマホの画像から視線を琢磨に戻す…

「あ! この投稿って、俺ね! 最近のこういうのってさ、一言書くと…次々〜と調べてくれる奴いるから…」

「…どうして…っ!」
《こんなコトになって…、奈都子さんや、成宮くんのお父さんの会社も…っ!》

「…【どうして】?
あの人は、ここまで追い込まれないと…止めないよ。分からないと思うよ?
瑞希ちゃんも、傷つけられて…なんで、そういうコト言えるの?
それとも、悠があのまま監禁されてて、あんなことされていても平気なの?」

その琢磨が、少し狼狽えているように見える表情に…、瑞希の中にも少しの変化があった…

「…【あんなこと】?」
《成宮くん、お姉さんに関係を強要されてるだけ…じゃないの…?》

琢磨の方を見上げながら…、嫌な予感が脳裏を駆け巡った…

「まぁ、瑞希ちゃんが知らない方がいいってこともあるんだよ…」

「あなたは、一体何が目的なの?」
《分からない…、この人の目的がなんなのか…?

成宮くんの友達なのに、彼のお姉さんの味方になって…。。彼を連れ去るのに加担していた…この人がっ。

奈都子さんのコトをネットにあげる…なんて…》

「…【目的】…か。。
俺、捕まりたくないし…これからの人生に影響があることに関わりたくないのっ!」

その、言葉を聞いても…琢磨が本心を言っているのか…疑わしかった…

自分の利益のため?…それとも、私欲のためか…?

瑞希には、理解できなかった…

神妙な顔つきになる瑞希に、琢磨はなおも不敵な笑みを浮かべながら…、瑞希の一挙手一投足を試すような目付きだ…

「あの人、ホント、容赦ないから…。
あそこまで、アイツに執着するだなんて…イカれてるとしか言えない…でしょ?」

と、にこやかな笑みを浮かべる…が、その瞳は、心底信用が出来ない…何かを感じられた…

「…あなたの言うこと、信用出来ません。」

そぅ、視線を背ける瑞希…、自宅アパートのカードキーを取り出す…。。いつもなら、暗証番号で鍵が解除できる…が、この男のことだ…その番号を記憶することは容易いだろう…と、思ったからだ…


「アイツのこと、助けてやってもいいよ…。助ける…と言っても…あそこから抜け出させることくらいしか出来ないけど…。。
その代わり…君は、俺と付き合うこと…。アイツと別れて…ね!
それなら…、解放させてやる…」

琢磨の口から出た…、交換条件…に、瑞希の表情は一瞬にして変わった…

「…そんなこと…っ」

「瑞希ちゃんさ、なんでアイツなの?
あの姉さんに取り憑かれてるような奴…、あの姉さん、きっと一生つきまとうよ?
それでもいいの? 」

「……っ」
《それで…、本当に…

彼を、助けるのに協力してくれるのだろうか…?》

瑞希は、琢磨の言葉に…一瞬、ためらった…

自分さぇ…、彼から離れれば…?

その言葉に…。。

琢磨は、カードキーの入った定期入れを持つ瑞希の手を重ね…、その顔を瑞希に近づけ…その耳元に…

「君がいま、部屋のドアを開けて…中に入れてくれたら…、音声データをあげる…」

「…え…っ?」
《それは…、

成宮くんと、数日前まで…一緒に暮らしていた…

この部屋で…っ?》

そぅ…、思い浮かんだ瞬間…、短い間だったが…この部屋で、彼と過ごした時間を思い出していた…


「…そんなこと…っ」

両の瞳から…、生暖かい涙がこぼれ落ちそうになる…

「あら、泣かせるつもりはなかったのに…」

琢磨は、瑞希の手を掴んでいた手を離した…さっと、身体を離すと…

「じゃ、今日のところは退散するよ。あの姉さん、自分以外の人間は信用してないし…見張られてるってこともあるかもしれないしね?」

そぅ、にこやかに笑いかけながら…、瑞希に手を振る…。。薄暗い路地をかけて行く…

「……っ」

その、琢磨の後ろ姿をチラっと見送りながら…、瑞希は、手に持っていたカードキーで、部屋のロックを解除し、中に入った…


全く…、琢磨が何を目的としているのか…理解し難いことばかり…だ…


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