堕天の翼
その、スマホ画面を覗き込むように見つめる瑞希…

その中には、高校生の時の悠がいた…修学旅行や体育祭…文化祭…卒業式…と、悠と瑠樺だけではなく、他の生徒たちもいた…


瑞希の知らない悠の笑顔が溢れている…

その胸に…、少しの温もりと、微かな痛みを感じた…

「……っ」
《私の知らない…、彼の表情…っ》

そのギャラリーを見つめる瑞希に…

「ふふ…、かっこいいでしょ?」

と、満面の笑みを浮かべながら…そう、言った瑠樺の言葉に…、瑞希はすぐさま我に返った…

パッと、顔を上げ…

「あ! そうだね…。ホント…」

瑠樺に、自分の真意を悟られるワケにはいかない…

瑠樺は、機嫌よく…その画像の中に居る悠の笑顔に、笑みを浮かべる…

「……」
《瑠樺ちゃん、私にあんな事、言っておいて…

やっぱり、成宮くんのこと、好きなんじゃないの…?》

その瑠樺の笑顔に、瑞希は微かな笑みを浮かべた…

それと同時に、胸の辺りがチクチク…と、痛みを感じた…


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


数日後。。

大学の講義に向かう電車内…、瑞希は再び…悠と初めて会った電車に乗っていた…

相変わらず…、朝のラッシュアワーの為か、その身体が押しつぶされそうだった…

先日…と、同じように電車内のドア付近にいた瑞希…

「……っ」
《あー、もぅ…この時間の電車って、何でこんなに混んでるの?》

と、身動きが取れない状況で、叫び声を上げそうになっていた…

電車が揺れる度に、押さえつけられそうになる身体…

が…

「大丈夫…?」

その耳元に聴こえた…その声に…

瑞希は、聞き覚えがあったような気がした…

瑞希は、そ…っと、その声が聴こえた方を見上げる


「…あ…、」
《…な、成宮くん…っ》

その人物に、瞬時に胸の鼓動が早まったのを感じた…

「この時間…、激混みだから…気をつけないと…」

瑞希は、悠の姿に安心し…悠の方に体勢を向き直した…

彼は、瑞希の身体がいま以上に押しつぶされないよう…盾になってくれていた…

「…あ、ありがとう…」

そぅ、笑顔を向ける…

瑞希の笑顔に、悠も微かな笑みを浮かべる…

その笑顔に、胸の高鳴りが抑えられなかった…

彼は、先日も痴漢を追い払った時にも小説を読んでいたが…今日も、小説を読んでいたようだ…

その表紙に、瑞希も見覚えがあった…

「その作家さんの…、私も持ってる…」

瑞希のその声に、悠は本から目を離し…瑞希の方に視線を向ける…

「え? ホント?」

「うん! それ、シリーズになってて…全巻持ってる!」

瑞希のその言葉に…、悠は柔らかそうな笑顔を浮かべ…

「そうなんだ。俺、このシリーズの中で好きなのが…主人公が初恋の人と再会した…」

「「…2作目の《隠された狂気》!」」

…と、ほぼ同時に発した…小説の題名に、2人は次の瞬間…同じように吹き出した…


その、悠のいつもと違う…屈託のない笑顔に…、瑞希の胸元に温もりが芽生えていた…

「私、この小説の主人公の人がその初恋の女性を亡くした時…、涙止まらなかった…」

「……っ」

そう、小説の感想を述べた瑞希に、悠の瞳に微かな変化が宿った…

「鷺森さん、いつも…この電車?」

唐突…とも取れる悠の言葉に、瑞希の言葉が止まり…、悠のことを見上げる…



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