~ジラソーレ・ひまわり~(礼文島から愛を込めて)
夏海は、イタリアンレストランのジラソーレで働きだした。
週に1度は、午後、病院へ通う。そんな日々が始まった。

忙しくて、余計な事を考えている暇は、なかった。
それが夏海には、救いだった。


《颯太、働くのは大変だけど、楽しいよ》


《そう、夏海は仕事してるの?頑張ってるね。僕は帰って来たから、しばらくは写真でも撮って歩こうかと、思っているんだ》


《いいな、良い写真たくさん撮って見せてね》


《うん、今日は夏海が言ってた、僕の写真が飾ってある店に行くんだ。兄さんに場所を聞いたから。ジラソーレって言うんだってさ、イタリア語で、ひまわりって言う意味だって》


《そう、それで颯太の向日葵の写真を飾ったのね》

そう返事しながら、夏海は緊張した。
颯太は今日、店に来る…。私の顔は知らないから、大丈夫よ…。
気をつけてれば。

《夏海は、水崎市の何処かで働いているんでしょ?偶然でも会えるといいな。》


《そうね会えるといいね、ごめんね颯太、私時間だからもう行かなきゃ》


慌ただしくスマホを切ると、お店へ向かった。

店はいつものように、昼近くなるとお客が増えて忙しくなった。

一人の、長身の男が入ってきた。
夏海は、いらっしゃいませと言って、はっとした。

颯太だ…。
颯太は、店の一番奥の席に、座った。夏海はドキドキして、コップを置く手が少し震えた。


「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたら、お知らせ下さい」


と言って、メニューを開いて置いた。


「あの、ここのマスターいる?僕、森山颯太と言います。ちょっと、お会いしたいんだけど」


夏海は顔を見れなかった。


「わかりました。今、呼びますので、少々お待ちください」


そう言うと、奥にいるマスターに告げた。






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