~ジラソーレ・ひまわり~(礼文島から愛を込めて)
マスターは、奥から出て、颯太に挨拶をした。


「やあ、よく来たね。写真をありがとう。とてもいい感じで気に入ってるし、評判良いよ。栗林さん、この人、森山颯太くん、店の入り口にある写真を撮ってくれた人なんだ。私の友人の息子さんでね、なかなか良い写真でしょ」


マスターは、夏海にも同意を求めた。そして、何でも頼んで良いよ、写真のお礼にご馳走すると言って、厨房へ入った。


「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく。」


颯太が答えた。ハキハキとして、張りのある声。
夏海は今日、初めて颯太と会い、声を聞いた。


「ご注文はお決まりですか?」


夏海はドキドキする胸の音が気付かれないかと恐る恐る聞いた。

「うん、ペペロンチーノね。今日は、得しちゃったな」


そして、夏海の顔を見上げて笑った。


「はい、良かったですね。ペペロンチーノですね」


と、夏海も笑って答えた。

スパゲティを運ぶと、颯太が話しかけて来た。


「奥さん…、ですか?こちらの?」


「え?違います。私は最近、ここへパートに来たんです。」


「あ、ごめんなさい。てっきり奥さんだと…、そう言いえば栗林さんて言ってましたね…」


と言って、夏海のネームプレートを見た。


「ええ、ではごゆっくり」

と言って、夏海はその場を離れた。

まだ、心臓がドキドキしている。私だと、分かるはずがないのに…。


その夜、颯太からメールがきた。


《夏海、今日は水崎のお店まで行ったよ。夏海も行ったジラソーレで、スパゲティをご馳走になってしまったよ。写真のお礼だって。おいしかったな》


《そう、良かったね。写真は飾ってあったでしょ?》

《うん、一番目立つとこに。お店の感じも良いし、マスターも良い人だしさ、働いている人も、いい感じな人だったよ。また、ちょくちょく行こうかな。笑》


夏海は、返事に困った。まだ、自分の事は知られずにいたい。
このまま、この関係を壊したくなかった。
しばらく返信が出来なかった。

《夏海は疲れたの?》


慌てて、返事を打つ。


《うん、今日はとっても疲れたの、ごめんなさい》

《そうか、ごめんよ。ゆっくり休むんだよ。おやすみ》



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