~ジラソーレ・ひまわり~(礼文島から愛を込めて)
夏海は、家を手放した。

匠は、大学を辞めて、バイトしてるスーパーの店長の計らいで、店員となった。

夏海は、美緒と匠の住んでいるアパートを訪ねた。

「母さん、来たの。まあ入って。」

夏海が中に入ると、美緒と真優が挨拶した。


「今日は、匠に話があったから、美緒さんも聞いてちょうだい。」


夏海は、康介は大学病院を移らなければならない事、家を手放した事を話した。

匠は、黙って聞いていたが、やがてうなだれるとぽつりと言った。


「母さん、俺、何も出来なくて。」

「匠、あなたのせいじゃないわ。聡と二人、母さんを助けて良くやってくれた。ありがとう。美緒さんと仲良くしてね。美緒さん、匠をよろしくね。」


美緒は、うっすらと目に涙をためながら、はい、と頷いた。


夏海は、気持ちが決まると落ち着いてきた。


「これからが大変だわ。頑張らなくちゃ。」


聡と二人で引っ越しをした。夏海は、花が終わった向日葵の種だけを取り出し、大切そうに小さい箱にしまった。


「さあ、行くよ。母さん。」


聡は、家の前に立っていた夏海を促すと、車を走らせた。

振り返ると、思い出の詰まった家は、だんだん小さくなって、やがて見えなくなった。


《颯ちゃん、今日引っ越しすんだの。》


夏海は、颯太にメールした。


《夏海、手伝ってあげられなくてごめんよ。》


《いいの、聡がいるし、そんなに荷物多くないしね。小さくなったけど、お店には近くなったの。》


《夏海、今日は会えない?》


夏海は、少し考えていた。聡が引っ越し荷物をほどいている。


「聡、母さんちょっとお店に行ってくる。色々お世話になったし。」


「ああ、いいよ。今日は荷物整理してるから。」


聡に嘘をつくのは、気が引けたが颯太には会いたい。マフラーを一枚巻くと、外へ出た。颯太はバイクで来ていた。


「颯ちゃん。」


夏海が走り寄ると、ヘルメットを渡した。

夏海は、颯太の後に乗ると背中に抱きついた。


「颯ちゃん、暖かい。笑。」


バイクは走り出した。

くれないの丘まで…




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