Last note〜特性を持つ者へ
ファミレスを越え、何度か交差点を渡った後に住宅街の外れに小さなアパートがある。

いつの間にか朝焼けは落ち着き、時刻午前7時。
俺と難波さんは被害者の自宅に到着した。

「大家さんから鍵を借りてきた。
2Fの手前の部屋だそうだ、行くぞ青山くん。」

「は、はい!ハァハァ…」

まだ息切れしている俺とは違って難波さんは
呼吸一つもう乱れていない。一体普段どんな鍛え方をしてるんだと不思議でしょうがなかった。

難波さんが先に入り部屋に上がると、
4畳半の空間にテレビ台と、少し薄汚れたテーブル。その上にマグカップと、新聞記事や記事の切り抜き等が乱雑に置かれていた。

「…フリーカメラマンらしい部屋っすね。
難波さん、このマグカップ鑑識に回した方が…」

俺はマグカップの中身を覗きながら言うと、
難波さんはすぐに電話をかけた。

電話をしている間、俺は部屋を見渡し観察した。
大体、何かあると割とすぐに匂いがするんだが…どうも何も"感じない"。

ふと、テーブルと窓の間を通った時、

ツン……。

それは突然、きた。

「ぅっ!?…ぅ…ええっ!」

目眩と吐き気で俺は慌ててトイレに駆け込んだ。

「お、おい!?大丈夫か!?」

トイレの便器で嗚咽する俺の背中をさすって声をかけてくれた。嗚咽だけで吐いても何も出ないけど、さっき視えた事は少し気持ち悪すぎた…。

しばらくしてから、鑑識さんがきた。
マグカップやその他も念入りに作業する中で、
俺は廊下の隅でペットボトルの水を飲み干してぐったりしていた。

「青山…くん?そろそろ話せるかい?」

難波さんが隣に座ってきて、優しく尋ねてくる。

「…あの窓際で、被害者はよく……」

俺が口を濁すと、難波さんは心配そうな目で俺を見つめている。言いにくい事もぼやかす訳にはいかない。

「被害者の、自慰の匂いがしたんです。」

そう、俺はこんな知りたくない事まで分かってしまう為、正直人のプライベートの面まで知らない内に知ってしまうことがある。
捜査の役に立てるとゆうメリットもあるが、
こうゆう匂いだけはほんとにキツイ…。
ましてや男のモノ…。

「言い辛い事を話してくれてありがとな。
青山くん、大丈夫だ。俺も伊達に10年、
警察やってるわけぢゃないって所見せてやる。」

「難波さん…。」

顔色がまだ悪い俺の頭をクシャッと撫でると、
難波さんは窓の外をしばらく見つめ立っていた。

そんな背中はなんだか頼もしくて、
俺はただボーッと眺めていた。
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