俺のものになってよ
その声の主はあたしの隣に並ぶ。
振り返らなくたって、誰かなんてすぐに分かった。
由梨さんは驚いたように目を見開いて振り返ると、彼の名前を呼んだ。
「…湊」
その声はかすれた小さな声だったけど、あたしの耳にはしっかりと届いた。
「…なんで」
「…俺、マジで許せなかった。お前のこと」
「…っ」
由梨さんが息を呑むのがわかった。
青木くんは、それでも言葉を続ける。
「本気で恨んだ、裏切られて…そっから女のことなんて、信じたことなかった」
由梨さんは、何も言わない。
ただ、青木くんの話をじっと聞いていた。
「でも、あの時のこと、全部が嘘じゃなかったんだろ…?」
一瞬ぴくりと肩を揺らしたあと、静かに頷いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「ごめんなさい」
今にも泣きそうな声でそう言った彼女は、今までで一番弱気な表情を見せた。
下唇を噛んで、泣くのをぐっと堪えている。