俺のものになってよ


その声に振り返ると、バツが悪そうに目を逸らしてぎゅっと手を握りしめる先輩がいた。


「遥先輩…?」


「ごめんなさい!」



いきなり頭を下げられて、今度はあたしが目を見開いた。


え、急にどうしたの!?



ゆっくりと顔を上げた先輩は、真っ直ぐにあたしを見つめた。



「羨ましかったの、幸せそうに笑ってるあなたが…だから、ちょっと困らせてやりたくて…」


「え…」



「ほんと、最低だよね、あたし。昔からこういうひねくれた性格なの、だから周りには隠してた」



あたしから少し目を逸らして俯きながらそういう先輩は、さっきまでのあの威勢のいい先輩とは大違いであたふたしてしまう。


でも、今の先輩もきっと素の先輩なんだと思う。



「ほんとにごめんね、芽依ちゃんと湊すごくお似合いだよ。あと、芽依ちゃんのその真っ直ぐなところ、案外好きかも」



申し訳なさそうにそういった後、ふふっと笑った先輩。



さっきとは打って変わった豹変ぶりにちょっと戸惑ったけど、初めて見た素の笑顔はあまりにも可愛くてうっかりハートを撃ち抜かれそうになった。



隣の三橋くんまでもが赤面してるくらいに可愛い。




「いえ…あたしは全然大丈夫です」


「湊も、ごめんなさい」



先輩はもう一度頭を下げたあと、くるりと背を向けて歩き出した。



その後を三橋君が追っていくのが見えた。




なんだ、先輩めちゃくちゃいい人じゃん。



先輩たちの後ろ姿を見て、自然と頬が緩んだ。




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