繋いだ指が示す未来
「綺麗だ」
矢倉はつぶやいた。
「さっきのは発表用。
今のが本当の引き方」
私は音の出ないAの鍵盤を
優しく撫でた。
「なるほど、
さっきの曲が外面用だから
俺、性格悪く感じたんだな」
でもやっぱり・・・
矢倉は言葉を続ける。
「さっきの曲好きって言ったけど
本当の弾き方の方が
綺麗で好きだな」
ゆっくりと言いきった時
私の心臓は妙にうるさかった。
なんだこれ。
私は気にしないように
また昼ご飯を食べ始めた。
「おい、急に無言になるなよ。
なんか反応しろー」
そんなこと言われると余計に
どう返したらいいか分からなくなり
また黙ってしまう。
「反応ないと、恥ずかしいじゃん」
矢倉は困ったように髪をぐしゃぐしゃした。