繋いだ指が示す未来


「綺麗だ」


矢倉はつぶやいた。


「さっきのは発表用。

今のが本当の引き方」


私は音の出ないAの鍵盤を
優しく撫でた。


「なるほど、

さっきの曲が外面用だから
俺、性格悪く感じたんだな」


でもやっぱり・・・

矢倉は言葉を続ける。


「さっきの曲好きって言ったけど

本当の弾き方の方が

綺麗で好きだな」


ゆっくりと言いきった時
私の心臓は妙にうるさかった。


なんだこれ。


私は気にしないように
また昼ご飯を食べ始めた。


「おい、急に無言になるなよ。

なんか反応しろー」


そんなこと言われると余計に
どう返したらいいか分からなくなり
また黙ってしまう。


「反応ないと、恥ずかしいじゃん」

矢倉は困ったように髪をぐしゃぐしゃした。
< 19 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop