過ごしたかった中学生。オモイヨ、トドケ。
押入れの中は薄暗く、埃の匂いらしきものもなさそうではない。広さも子供の時に比べてだいぶ狭く感じるけれど、ひびきは秘密基地の奥に目当てのものを見つける。宝石セットだ。魔法の手鏡と、なぜかリップクリームもある。あー、なんか一時期ハマってた時あったな。リップクリームでおしゃれ、っていうのに。

ひびきが宝石セットの残りをチェックする。

「ルビー、ダイヤモンド、アメジストにパール…あれと、これ、それ…よし、全部ある。」

12個、全部あった。誕生石、全12ヶ月分の宝石のおもちゃを小さい時にサンタさんがくれたのだ。説明書には何月がどの誕生石なのかが載っている。これも後で気が向いたら見てみようか。

ひびきは半開きだった押入れの戸を全部閉め、ポケットの中に潜ませていた小さなライトを置き、これまでのことを振り返る。

去年、二月に私はベランダから飛び降りた。幸い、下が畑のような土だったからか、命は絶えず、だが足をほどほどに骨折した。しばらく寝たきりの生活になった。その後、リハビリをして、車椅子からも卒業し、今、入院生活を終え、うちの押入れに座っている。まとめ方が大雑把すぎたからか、単調な事後報告みたいだけど、私は飛び降りた理由を今も忘れられない。忘れられないから、今ここにいるんだ。そう、この秘密基地のある秘密を私の願いに使おうとしている。一度きりの人生を、一度終わらせようとした私だから、人生の後悔はとても悲しいことを知っているつもり。丸16年しか生きてない小童が何を言うか、ってやつだろうけど。

目を閉じ、胸に手を当てるひびきは、心に問う。
(私の後悔は何?)
中学に行かなかったこと。中3の卒業旅行に参加したかった。でも行かなかった。自分の願いを叶える努力をしなかった。

…後悔の原因は私が何もしなかったから。だから、遅くなったけど、まだ遅くないと信じて、この宝石セットを使う。魔法の手鏡と共に。私は行動すると決めたんだ。あの世界で最初で最後の体験をする…。現実を変えるのは難しいよ、きっと。過去なんかは特に、どう変化させるんだろう。

私は、パラレルワールドの世界で中3の始業式から卒業式までを知る。見る、学ぶ、体感する…。

現実に変化はないけれど、良い体験も悪い体験も現実には影響しないけど、それでも…。

行こう。ひびきはそっと、手鏡に触れる。鏡が済んだ泉のように小さく光る。鏡が手をぼんやりと飲み込む。

宝石セットの中身、誕生石12個をポケットの中に入れ、ひびきは鏡を通り抜ける。ひびきが鏡の中に消えた途端、光は消え、押入れには誰もいなくなった…。一瞬の出来事だった。
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