過ごしたかった中学生。オモイヨ、トドケ。
一学期

四月

「いったぁ…」

校庭の砂利の上に落ちたひびきはゆっくり立ち上がって身体中の砂をはらう。よかった、ちゃんと制服だ。

さて、今は、何年何月何十日だろう?そして今は何の時間?

ひびきが辺りを見回し、ギョッとする。隣には自分よりもでかいクマの着ぐるみがいたのだ。

「おまえ、誰?」

「中学生のくせに敬語も使えんのか、おぬし」

「は?老人口調だし、声低いね。あんた男なの?」


老クマがため息をつく。悲しさがにじみ出ている。


「せっかく、緊急事態を教えてやろうと思ったのに…。」
「え、何?地震発生、とかピンチのお知らせっすか?」

老人クマは苛立ってきた。まずコイツの話口調を何とかせねば。

「こほん、津田 ひびき。これから先、敬語を使わないとワシの雷が落ちるぞい。」

「え…あ、はい。気をつけます。敬語、ですね、はい…。」

ひびきが大人しくなったことで、老クマの穏やかさが戻ってくる。老クマの紳士さは、保ちたいのがこのワシ、とでも。

「ひびき、おぬしの宝石はどこにある?」

「え?…あ、ない!ポケットの中に入れたのに!」

「ひびき、敬語。」

「ないです、そうです、青ざめてます!…どうしよう……。」


「落ち込んでる暇はないぞ、ひびき。」

老クマが、眼鏡をかけ直す。おそらく老眼鏡であろう。
「あの12個の誕生石が全部揃ってないとおぬしは元の押入れには戻れないのじゃ。」

説明書をよく見たか?と聞かれて、見てないですけど?と答えた後、ふと思う。
なに、その言い方。それじゃまるで…
「違う押入れなら戻れるのですか、ご老体さん?」
「ああ、戻れるとも。」
ひびきは目を丸くする。冗談のつもりだったのに。
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