過ごしたかった中学生。オモイヨ、トドケ。
「違う、ってどう違うんですか?」

「所有者じゃな。」

しょゆうしゃ?初代勇者の略、初勇者?

「ひびき、おぬしの使った押入れの所有者はおぬしの父、津田 満(みちる)じゃ。津田 満の持つ襖は他に二件。場所は愛人Aと、親しき仲B、のための持ち家じゃ。」

しょゆうしゃ、の意味は何となくわかったけど、お父さんの秘密を娘に簡単にバラす老クマ、デリカシーなさすぎ。もっと配慮すればいいのに。


「へえー、じゃ、私が安全に戻れる押入れはどこか無いですか?」

「違う押入れはランダムで決まるからのぉ、ひびきが危険な目にあったらワシの心が傷つくのでやめたほうがいい。」


え?何でアンタが傷つくの?
「何でご老体様が傷つくのでございましょう?」

よし、めちゃ丁寧に言ってやったぞ。ひびきは密かにガッツポーズ。

「そりゃ、今ひびきと話して関わりを持ったのも何かの縁じゃし、その縁の子ひびきが危険な想いをしたら悲しくて苦しい気持ちになるのじゃ。ひびきが心配だし、優しい心で接したい想いになるのぉ、ワシは。ご両親も、きっとそんな気持ちじゃろう、おぬしの飛び降り直後は。」


「…。」

痛いところをつくなよ。…でも、そうだったんだ。

入院中届いたうちのお母さんの手紙に「生きていてくれてありがとう」って、毎回のように書いてあったけど、私、信じられなかったんだよな。いつも私のことなんかほったからしで、今まで寂しかった。だから、その言葉を信用なんてできなかった。
でも、私が危険な目に合うと心配なんだ…。



「ねえ、ご老体。家の押入れは安全なんですよね?」

「おぬしが…がびょうばらまいてからここにきてなければな。」


「うん、大丈夫。がびょうはまいてないです。」


「そしたら、誕生石12個を見つけておくれ。4月7日から3月20日までにな。」

「ん?なんで365、6…日じゃないんですか?」

「始業式から卒業式まで。」「あっ!」

世話がやけるやつじゃのぉ、友達になるやつは大変じゃ…老クマがぼやく。ひびきは聞こえないふり。「で、誕生石はどこ探せばいいですか?」

「まあ、学校の中に落ちて誰かが拾ったかもしれんのぉ、聞き回ればよかろう。」

「え、マジですか?」

ひびきは緊張の証拠にロボットの動き真似をする。かち、こち、がちち…。老クマにはウケない。撃沈。

「じゃあ、みんなはどこですか?一人一人聞けって事でしょうか?」

「まあ、待て。みんなは体育館で始業式をしているところじゃが、宝石の話はそう簡単にするでない。まずは、人間関係を築くのじゃ。」

「はーい。わかりましたぁ。」

老クマのくせに人間、の話をするなんて。ひびきは改めて自分の背よりも高いクマのぬいぐるみの耳を見上げ、コイツのこと可愛いと思って買ってくれるやついないよな。最悪、私が引き取ってやってもいいけど。…などと考えていた。





…ってなわけで。ただ今、体育館の前。逃走したい。

中を覗くと、人が大勢いてさー、重苦しい雰囲気。

もっと軽やかな明るい始業式にしてよ…。

「ひびき、おぬしがそう変えればいいのじゃ。」

後ろのオンボロクマ老体は訳の分からないことを言う。私にそんな力があるとでも?私の臆病を直してくれそうなのは、少なくとも自分じゃないはず。
ひびきは、怪訝そうな顔をする。

「おぬしには使うか使わないか選べる力があるのじゃ。それは、願いじゃ。願いを叶えたくば行動し、願いをおぬしの手で掴むのじゃ。願いはおぬしが叶えようとすれば、叶えたい願いが生まれ、おぬしの心に満ちる望み…。わしゃこれが大好物なのでのぉ。」

ボ老クマ、そこかよ。自分の幸せ目当て…。私の望みたべて生きて、あんた幸せか???
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