例えば貴方だとして…。
桜が舞い散る春の事。私の頭に映し出される鮮明な映像。
宙を舞う血飛沫と、赤いアスファルトの地面。その映像は、私の手足を止めるには十分すぎた。
『ホント…嫌な記憶…。』
ため息混じりに呟くと、それをかき消すかのような風が吹く。
「おっはよーーー!!!」
風と共に飛んできたのは、友達の水島 茜である。まだまだ出会って1年半位だが、案外気が合うのだ。
『はよー。てか、うるさいね…朝から』
まだまだ眠気が覚めない私は、若干不機嫌オーラを出しながら、茜に怒った。
「そんなウザそうな顔しないでよー!わたち泣くぞよ?」
『…近くの精神病院っと、』
「えっ!?病んだの!?大丈夫??」
『いや、アンタを連れていこうと…』
割とマジな顔をして言うと、茜もマジな顔になって、やっと正常になるか…。と淡い希望を抱いたのも束の間、一瞬にして壊される。
「大丈夫…私と澪は、同類だから。一緒にお花畑に行こう?」
『勝手に行ってろ、脳内花畑女。』
やはり希望を壊すスペシャリスト水島。希望を抱いたとして、それが叶うなど奇跡に近いのだ。
『はぁ…アーメン。』
「ん?新しい魔法の言葉かい?ミオトン君…?」
『(もうコイツやだ…)』
とりあえず、気をしっかりと持ち直すと…スマホでカレンダーをチェックした。
「あれれー?もしかして、彼氏さんとおデートですかー?」
『違う…弟の文化祭、もう少しだなと思って。』
「あぁ!なるほどリーナ!」
日付を確認すると、仕方なくたわいもない会話を花畑女としながら、学校へと足を運んだ。
教室に着くと、ざわざわとしているクラスメイト達を少し眺めたあと、自分の席に腰を下ろした。
茜とは、他クラスの為、クラスの中での友達は居ない。そもそも、自分から作りに行けるほどの人間ではない。
しかし、何故かそんな私にも…彼氏というものがいるのだ。その相手とは、サッカー部所属のイケメンこと橋本裕哉。
自分で言うのも恥ずかしいが、私は裕哉にぞっこんなのである。決してメンヘラではない。ただ、愛情が少し…すこーし重いだけ。
「なーに考えてんの?もしかして、俺のこと?」
『っ!///ゆうやー!!その通りだよ〜!』
思わず猫なで声にすると、クスクスと笑われ頭を撫でられた。
「かっわい〜。だけどー、ココ教室だからさ…俺以外にあんまりその声聞かせないで?」
優しい表情に心を殺られ、更に顔に熱が集まった。もうこれは、見せられる顔ではないと思い、咄嗟に顔を伏せる。
「もう…可愛い顔みせてよー!」
『無理無理無理無理!!///』
否定しても、呆気なく顔を持ち上げられ、目を合わせられる。小さなリップ音がすると、教室のあちこちから悲鳴が上がる。
『ゆ、祐哉!?////いい、いまの…』
「おっ、そろそろ先生くるねー…また後でね。」
私の問いかけも答えぬまま、自分の席へと戻っていく裕哉を見て、思考が停止したままになった。
『(今日も、私の彼氏は…尊い。)』