監禁生活5年目


あれからどれくらいがたっただろう


私はもう冷たくなっているお父さんの頬を撫でた。


「………お父さん……」


涙は後から次々に出てくる

「…………ごめんね」

私はそこから立ち上がった。

何時間も座っていてあしが痛くなったが構わず台所までいった。



「………この花」

私は前にお父さんが花瓶と一緒にくれた花を持った。

一応水につけておいたのでくたびれてはいなかった。

「……この花………この花の花言葉は確か…」

お父さんがくれた花。

それはアルストロメリアという綺麗な花。


私の名前は"花菜"。お母さんは花が大好きだった。
ごくたまにお母さんとお散歩に行くと綺麗な花を見つけては家に飾っていた。

けれどなかには名前がわからないのもあった。

だから私はよく学校の図書室で花の図鑑を読んだり、花言葉の本を読んだりしていた。

だからアルストロメリアの花言葉と知っている。

「この花の花言葉は………………"持続"と"未来への憧れ"だった……」




持続?未来への憧れ?


お父さんはどんな気持ちでこの花を選んだのだろう。


いや、お父さんは花言葉を知らなかったかもしれない。

……………でももし、花言葉を知っていたとすると


私はもう動かないお父さんを見た。


お父さん。お父さんはもしかして、お母さんと私と一緒にいたかったの?

お父さんはお母さんと私の3人で一緒に過ごしたかったの?


『お父さんと呼んでくれてありがとう』

私はお父さんに言われた言葉を思い出した。

鼻がツンと痛くなる


「…………お父さん。」

もう呼んでも動かない。返事もしてくれない。

そんなことはわかっている。

私は手に持っていたアルストロメリアの束から2本だけ別に取り、お父さんの胸にのせた。

「………お父さん…今まで………5年間、美味しいご飯。マンガや綺麗な服をありがとう。本当はお父さんと一緒にいたい。………………けどね、お母さんとも一緒にいたいの。……だからここでお別れだね。」


私はお父さんの頭を撫でた。

「この花。大事にするよ!!枯れちゃってもまた買う!!これと同じ花を買うよ!押し花にして、何処にでも、肌見離さず持ちづつける!」


涙が一つこぼれた。

「………だから……ここで離れても大丈夫……」

声が震える
今言った言葉はほぼ私に向けて。

「…………お父さんが私のお父さんで良かったよ…」

私はお父さんの頬にキスした。

「………またね、お父さん。」



私はそう言うとすぐに立ち上がり、リリちゃんとアルストロメリアを持って部屋を出るためドアに向かった。


これ以上お父さんといたら離れたくなくなってしまう。

それはダメ。


お父さんも大事。


けれどお母さんも大事だから。



そして私は5年間住んでいた部屋から出て、そのドアに鍵を閉めた。

理由はあまりないが、開けておきたくなかった。

鍵は閉めて行きたかった。




「…………またね」

もう一度言った。


「……………………」





私はお父さんが使っていた机を見た。

近づいて机の横の壁を見る。


壁にはお父さんとお母さんと私と3人で写っている写真がある。

私は写真に手を伸ばした。



けれど手は止まった。




持っていきたい。この写真も持っていきたかった。

けれどダメ。これはお父さんの写真。


リリちゃんや、アルストロメリアとは違う。

きっと、大事に大事にしていた写真なのだ。


だからここで私が持っていってはいけない。


机に視線を戻すとふと、赤いノートに目が止まった。


私はそのノートを手に取り、一ページ目をめくった。


「……これは…日記?…」


そのノートは日記のようだった。




もしかしたら、ここにお父さんと私とお母さんが一緒に住めない理由が、書いてあるかも知れない。



そう思った。 




「…………………………………」






けれど私はそのノートを閉じた。


そしてノートをもとあった場所に置いた。




読まない。



読んじゃダメ。




理由は知りたいけれど、こんな形では知りたくない。



私はかすかに光が漏れているドアへと向かった。


そしてドアノブに手をおく。


「………………よし……」 



私は思いきってドアを開けた。




けれどまだそこは外ではなかった。


前にもっと光が漏れているドアがあった。


本当に明るい。


「……………玄関だ」

確認しなくてもすぐにそう思った。

ここだけ少し匂いが違うのだ。





もうすぐお母さんに会える。



そう思うと私はすぐに階段をかけあがりドアへと向かった。



私はドアの前に立ち、ドアノブをつかむ。



お母さんに会える。


5年ぶりにお母さん。


私は片方の手で持っていたリリちゃんを強く抱き締めた。






会えるんだ



私はドアノブに力を入れた。

         


               
          



けれど、私の手はドアを開けなかった、



ドアノブを回したまま止まっている。




「…………………………………………………………あれ?………………………………私、今どうやって………………ここに来た?」




心臓が、バクバク鳴る。


呼吸が乱れる。



私は恐る恐る後ろを振り向く。






そこには長い階段があった。




私が登ってきた階段があった。




「……………か……い…だん?…………」




何で階段があるの?



段数はかなり多い。


「…………もし…………かし…て」



私は嫌な考えが頭をよぎる。



「……私がいたあそこは………」



手足がガクガクと震える



「…………………………………………………………地下?」




いや、まだそんなことはわからない。


私はとりつかれたようにドアノブに手を伸ばし、思いっきり開けた。







「………………………え?……」



私は凍りついた。


体が動かない。




私の目の前には長い長い廊下があった。




そしてその長い長い廊下の先に








「…………お……かあ……さん」





私のお母さんが立っていた。












< 9 / 13 >

この作品をシェア

pagetop