お見合い結婚いたします!~旦那様は極上御曹司~
どこか一方的な調子で言うと、秘書の女性はそのまま通りすがって私のきた通路を真っ直ぐに進んでいく。
聞きたいこともあったから振り返ったものの、足早に去っていくその背中が〝呼び止めないで〟と言っているように見えた。
仕方なく一人、副社長室を目指す。
立派なドラセナが置かれた突き当たりのドアの前に立ってから、室内には副社長が在室しているのか、やはりさっきの秘書を呼び止めてでも聞くべきだったと後悔した。
でも、虫が出たというなら、席を外されているのかもしれない……?
「失礼します……」
中には誰もいないかもしれないと思いながら、ノックをして声をかけてみる。
しかしすぐに「はい」とはっきりと中から声が聞こえてきた。
再度「失礼します」とドアを入り、後ろ手ではなく丁寧に扉を閉める。
「総務部、須藤です。秘書課から連絡をいただき、虫の駆除に伺いました」
入室の事情を説明しながら、長方形に広い部屋の奥のデスクに掛ける副社長を目にして、自分が一気に緊張感に包まれるのを感じた。
「ご苦労様」
そう言った声は低く艶があって、むやみにどきりとさせられる。
思わず部屋の入り口に突っ立ったまま、その絶対的な存在感に圧倒された。