お見合い結婚いたします!~旦那様は極上御曹司~
指を差されて見上げた先、ぎょっとして釘付けになってしまった。
入ってきた扉の横、壁を伝って部屋の隅の天井近くにとまっている虫……。
白いクロスのせいで、その存在感は抜群。
目にした瞬間、はっと息を飲んでいた。
「ごっ……ゴキブリ、だったんですね」
思わず声が上擦る。
本当は今すぐこの部屋から飛び出したい。
それくらい、私はゴキブリがダメだ。
何がダメって、あの色と形、そしてあのすばしこく這う動きが猛烈に受け付けられない。
だけど、無理と言って立ち去るわけにはいけない。
これは仕事。
虫取り網を持つ手に力が入る。
「で、では、駆除、しますので……成瀬副社長は、離れていてください」
気持ちを奮い立たせて、壁のゴキブリを追い詰めていく。
飛んできたらどうしようなんて思いながら網を構えると、背後から「ぷっ」と笑いを吹き出すのが聞こえた。
え? 今……笑った?
臨戦態勢のまま振り向くと、成瀬副社長は口に手を当て、私を見てやっぱりクスクスと笑っている。
こんな風に楽しげに笑うようなイメージがなくて、私は途端におろおろとし始めてしまった。