お見合い結婚いたします!~旦那様は極上御曹司~
成瀬副社長が小首を傾げて、私をじっと見下ろす。
「あ、今日……下の会議室で、商品企画部の技術デモがありまして、その時に、もしかしたら逃げ出したのではないかと……」
害虫駆除商品の技術デモ――技術デモンストレーションが、今日の午後、この下の階十二階の会議室で行われていた。
私が会議室を解錠した担当ではなかったけれど、部のホワイトボードに『害虫駆除商品技術デモ』と書かれていて、担当した後輩の美代子ちゃんに聞いてみると、「虫かごにゴキ連れてきてましたよ!」と背筋の凍ることを言っていた。
間違いない、その時のデモから逃げ出したに違いない。
「なるほど……実験から逃げ出してきたっていうことか」
「かも、しれません……」
「命からがら逃げてきたのに、結局ここで仕留められるとは、コイツも残念な奴だな」
口を結んだビニール袋をゆらゆらとさせて眺め、成瀬副社長は入り口近くに設置されたゴミ箱の中に袋ごと捨ててしまう。
「ご苦労様。悪かったね、こんな仕事で呼び付けてしまって」
「い、いえ、とんでもございません。私こそ、ほとんど何もできず、副社長にお手数をお掛けしてしまいまして」
はっきり言って、ビニールを広げただけしかしていない。
副社長という身分の方に何をさせているんだと思うと、膝におでこがつく勢いで頭を下げていた。
「本当に申し訳ありませんでした! 失礼いたします!」
床に置いたカゴの取っ手を掴み上げ、さっき立て掛けてもらった虫取り網を手に取る。
ドアの前でもう一度深く頭を下げ、「失礼いたします」とそそくさと副社長室をあとにした。