お見合い結婚いたします!~旦那様は極上御曹司~
一人きり、水道から流れる水がシンクを濡らす音を聞いていた中、突然、給湯室の入り口から声をかけられ飛び上がりそうになった。
そして、顔を向けて更にびっくり。
だって、そこにいたのは成瀬副社長だったからだ。
給湯室の入り口に手をかけ、目が合うとふっと薄い唇に笑みを乗せる。
今さっき挨拶をして見送ったはずなのに、どうして……。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「い、いえ! そんなことは」
と言いつつ、明らかに声が動揺している。
話しかけられただけで顔が熱くなっていくのを感じながら、流しっぱなしになっていた水道の水を止めた。
「昨日はありがとう。やっぱり、デモ中に逃げたのがいたらしいよ」
「えっ……」
「虫かごをひっくり返したと聞いた」
「そう、だったんですか……」
緊張が高まってきてしまい、会話もまともにできている気がしない。
間が持たなくなって、濡れた手をタオルで拭くのに集中する。
「ところで、須藤さん、お昼はこれから?」
「えっ、あ……はい」
「そう。良かったら、一緒にどうかなと思ったんだけど」
すっと上げた左手の腕時計に目を落とし、成瀬副社長は時刻を確認する。
予想もしていなかった話の流れに、完全にフリーズしてしまった。