眠れぬ夜に
客席よりも少し高い位置にステージがある。簡単に言えば、客を見下ろせる感覚。
柵にはいつも来てくれている女の子二人やファンの子達が張り付いて笑顔でこっちを見ている。あたしの正面側の人だかりの後ろにはショウが居た、しかしその隣に白いシャツの似合う大きく綺麗で真っ黒な瞳をした少年が立っていた。

―サ、サトル君・・・・?だ・・・・

あたしとした事が初めて見るサトルの姿に見とれてしまってドラムの合図を聞き忘れた。会場には笑いが生まれ、あたしはいつもステージでは見せない笑顔を見せた。
サトルを視界に入れないように、そればっかりを意識してしまいライブはボロボロ。
メンバーもあたしの変な様子に気づいたらしく珍しくドラムがMCをしていた。

―あと、2曲。しっかりやって見せ付けないと

MCが終わり、気持ちを入れ替えてうちのバンドの中でも割と人気のある曲を2曲やった。最前列にいる女の子達は必死に手を振り上げてオーディエンスをくれる。気持ちがいい、やっぱり音楽は最高だ。

曲を終え、あたしはギターをステージに投げつけて放心状態で客席に向かって静かにお辞儀をし裏へ捌けていった


―あーごめん。本当にごめん

あたしは先ず二人に謝った。

―どうしたのかと思ったよ、まぁ客が笑って済んだし最後は決めてくれたからいんじゃない?

ユミは汗だくになりながらも明るくあたしを励ましてくれた。

―謝るとかアンタらしくないし、次もあるんだからいいじゃん。とりあえず飲もうよ

リカもそう言ってくれたが、あたしの頭の中ではサトルの綺麗な瞳でいっぱいだった。

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