上司との結婚は致しかねます

 俊哉さんは遠くを眺めるような目をして話し始めた。

「彼女には俺は藤花といる時のようには笑ってくれなかったって言われたよ。」

「え……だって………。
 前回の打ち合わせの時に……。」

「あぁ。あれは不意打ちで藤花のことを聞かれて、つい……。
 そのせいで彼女はご立腹だったみたいだが。」

 嘘………私もそのせいで……。
 すごく傷ついたのに………。

 驚いて今にも立ち止まりそうな私を彼は同じように速度を緩めて顔を覗き込む。
 罪深い彼は私の気持ちには気づいていないようで「ん?どうした?」と甘い顔をさせて私の肩を抱き寄せた。

「彼女のこと、当時の俺なりに大切にしてたつもりだ。
 普通には笑っていたはずだし、裏切られて傷付き、笑えなくなったのも事実だ。
 藤花にこんな話をするべきじゃないんだろうが………。」

 私はどうしてか涙があふれて「ううん。そんなことない。聞かせて」と途切れ途切れの声で答えた。

 彼の過去から逃げ回って不用意に傷付くのはもう嫌だった。
 あふれた涙を拭いて彼の言葉を待つ。

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