上司との結婚は致しかねます

 電車に揺られ、連れて来られたのは映画館。

「あ、あの。手を繋ぐのはちょっと。」

 電車から降りた私の手を自然に取って歩き始めた彼に物申した。

「どうして?嫌?」

 嫌じゃない。嫌なわけない。
 その証拠に心臓はこれでもかとドキドキしている。

 けれど……。

「ここ、会社からも近いですし。
 誰かに見られたら……。」

「そんな暇人いないさ。
 今頃、みんなあくせく働いてる。」

 みんなが働いている日に有休を取って遊びに来ていることに若干の罪悪感があるものの、そのことを言いたいのではない。

「そうかもしれないですけど、万が一ってことも。」

「もう、いいだろ?
 だいたい隠すことない。」

 嘘でしょ。概ね私の「社内では今まで通りに」ってお願いに賛同してくれていたのに。

「でも、だって。」

「いいから。
 だから映画にしたんだろ?
 映画館に入れば誰に見られることもない。」

 意味深に微笑む彼に抗議する。

「だからって行くまでに見られたら元も子も……。」

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