上司との結婚は致しかねます

「気がついた?」

「あの、私……。」

 優しく微笑む俊哉さんが頭を撫でる。

「急激に全力でぶつかり過ぎたようだ。
 まさか気を失うとは思わなかったよ。」

「ご飯、食べられる?」と言う彼へ頷いて、私は聞きたかったことを口にする。

「異動……入江さんだけでした。
 高宮課長が辛そうな顔をされていたので、私も異動なんだと……。」

「うん。その辺りは部長達に理解があって良かったよ。
 というより、家で高宮課長と呼ばれると寂しいものがあるな。」

 苦笑する俊哉さんにもう一度、問いただす。

「どうしてあんなに辛い顔を?」

「優しい藤花が胸を痛めるだろうと思って。
 案外、平気だったか?」

 悪い顔をする俊哉さんを非難する。

「そんなことありません!
 ただ、あまりにも酷い顔をされていたので、心配になるじゃないですか。」

「俺のこと?」

「それは、もちろん、そうですよ。」

「そう。それなら笑っていて。」

「笑う……ですか?」

「そう。藤花が笑ってることが一番。」

 有耶無耶にされたような気がして、彼を見ても欲しい答えはもらえなかった。

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