上司との結婚は致しかねます

 会議室に入ると後から入った藤花が鍵を閉めたのが分かった。

「俊哉さん。何かありました?」

 近づいてきた藤花が会社では呼ばない『俊哉さん』と呼び、俺を見上げて顔をまじまじと見つめた。
 心を見透かされるようで、片手で顔を覆う。

「見るな。」

「どうしてです?
 会社ですけど、キス、したいです。
 今すぐに。」

 何を言われたのかすぐには理解出来ずに呆けた顔をしていたようで笑われた。

「フフッ。驚いてる。
 勝手にキスしちゃいますからね?」

 首に手を回されて、体を屈まされた。
 背伸びをした彼女の唇が俺の唇に触れた。

 柔らかい。
 毎日、今朝だって触れた唇。

 それなのに体中に電流が走ったみたいに痺れて、体が熱くなった。

「藤花。頼むから分かるように説明して?」

 倒れこむように彼女にもたれかかると「潰れます!体格差、考えて!!」と騒がしい。

 そんな声もどこか遠い世界から聞こえているような気がしていた。


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