上司との結婚は致しかねます

「怒った?よな。」

「怒ってます。」

「ごめん。」

 静かな車内は上手く息が出来ない。

「ずるいです。絶対、酷いこと……言われて、そんなことないって庇う機会……もうないんですもん。」

「あぁ。庇ってくれる藤花も見たかったな。」

「じゃどうして勝手に挨拶なんて………。」

 前を見たまま、ハンドルを握る俊哉さんは当たり前のように理由を説明した。

「黙って住まわせるのは簡単だけど、ご両親のことを思うと安心させたくて。
 逆に最初の頃は余計な心配をさせたかもしれないけどな。
 嘘は……つきたくなかった。」

 付き合ってもいないのに娘を住まわせる職場の上司。
 そんな人の登場に戸惑う両親が目に浮かぶ。

「お義母さんは最初から協力的で藤花の好物を持たせてくれたりしたよ。」

「じゃあれって……。」

 俊哉さんが作ってくれる料理で懐かしい味のものがあって、嬉しくなった時があった。
 母の味に似てますって、あれは本当にお母さん……気づかないなんてとんだ親不孝じゃない。

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