上司との結婚は致しかねます

「藤花?先に行ってて。5番スクリーン。
 俺は何か買っていくよ。」

「あ、私に買わせてください。
 映画のチケット代だって受け取ってくれないですよね?」

 こういう代金を受け取ってくれた試しがない。
 それなのに彼は小さく微笑んだ。

「いいから甘えとけ。
 散々、放ったらかしにしておいた罪滅ぼし。」

 チケットを渡されて彼は平日で人もまばらな売店の最後尾に並んだ。

 罪滅ぼしだなんて……。
 彼が忙しいのは、同じ会社だし理解している。
 だから、今の関係に納得している……つもりだ。

 彼の後ろに並んだ男女が仲睦まじくポップコーンの味を何にするのか相談し合っている。
 2人で見つめ合って微笑み合って戯れ合って。

 そういうことをしたくないって言ったら嘘になる。
 私だって………。

 自分から拒否しておいて何勝手なことを。
 肩を落として渡されたチケット片手に5番スクリーンへと歩を進めた。

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