上司との結婚は致しかねます
コンコンとノックの音がして「藤花?ごめん」という声が聞こえた。
私はヒックヒックと肩を揺らしながら、その声に応えることはなかった。
それでも高宮課長はその場を離れずに勝手に話し始めた。
「行く前に話しておかないといけなかった。
ごめん。」
そんなこと、そんなことを怒ってるんじゃない。
そんなところに幻滅したわけじゃない。
「それに、あいつの言うことは気にしないで。
深く考えずに生きてるような奴だから、あいつの言うことに深い意味はないんだ。」
この期に及んでまだ美咲さんを庇うような発言に私は虚しくなって、余計に涙が溢れた。
携帯には名刺交換した林田課長からアドレスを拝借したのか、知るはずのない美咲さんからのメールが届いていた。
『俊哉と結婚するの?おめでとう。
俊哉、何でも出来るから、何もしなくてよくて楽チンだよね。
誰にでも出来ることをしなくていいって言われて、家事やらなくていいんだもん。
私も俊哉にしとけば良かった〜。』
誰にでも出来ること。
そう思われているんだと認めてしまう自分がいた。