悪魔の花嫁
礼子はじっと、露子の目を見る。
「お父様が事業に失敗されて行方知れず、貴方は一人暮らし。アルバイトで生計を立てている。噂でそんなお話を聞いているわ。でもあなたの身につけているものって高価なものばかり。生活に困って居る様子はないし、とてもじゃないけど、そんな、苦労なさってる様子がないのだもの。」
 礼子は鋭い。
 そして頭の回転の早いところがある。
 露子は彼女に対する認識を改めざるを得ない。
「知り合いの家に置いてもらっているのよ。奨学金だってあるし、父は行方知れずだけど、私の生活に必要なお金ぐらいは用立ててくれたわ。」
「そう、それなら安心ね。でもあなたが本当にお困りなら、私、力になるわ。
 だって、私、」
 そこまで言って、礼子は何故か頬を赤らめる。
 露子はため息。
 礼子のランチボックスを覗き込んでいる小鬼を指で弾いて追い出した。

 午後は文化祭の準備である。
 衣装の買い出しの係に露子と礼子が選ばれた。
 何故かクラスメイトは二人のことを特別に仲が良いと思っている節があるが、露子は一方的につきまとわれている認識しかないので、正直、気が乗らない。
 霜月商店街には古道具屋があり、そこで衣装やら小道具を貸してもらえることになったのだ。
 この古道具屋、店主こそ人間であるが、古道具には本物の付喪神(つくもがみ)も混ざっている。 
 それに、女手二人では大荷物を抱えていくのは困難である。
 露子はしばし段取りを考えて、礼子と共に、おひさまローンの事務所に向かうことにした。
「露子さん、何故まっすぐ古道具屋さんへ行かないの?」
「荷物が多くなったら私たちじゃあ持てないでしょう?足を借りるのよ。」
 露子はにやりと笑う。
「まあ。」
 礼子は意外にもしたたかな露子に感心した様子でこくこくと頷く。
 おひさまローンの自社ビルのエレベーター内で、礼子は急に怯えた様子になる。
「ここって、いわゆる消費者金融でしょう?私達みたいな可憐な女子が行って大丈夫なのかしら。売り飛ばされたり、夜の店で働かされたりしないの?わたしテレビんお特集でみたことあるの。怖い所なんでしょう?ヤクザが取り立てに着たりしないかしら。」
 礼子のお穣様らしい勘違いに露子は少し笑う。
「お世話になっている知り合いのお店なの。きっと人手を貸してくれるわ。それに、お金も借りてないのに、どうしてヤクザが取りたてに来るっていうのよ。」
 二階の事務所に入ると、十全が眼鏡をかけて書類仕事をしていた。
 真面目に働いているところを、アポなしで押し掛けて悪かったかな、とすこし反省するが、露子は声をかける。
「露子ちゃん?どうしたの?まだ学校でしょう?」
 十全は驚いた様子で眼鏡を外す。
 ちなみに彼は老眼である。
「文化祭の準備で外出許可があるんです。それでね、十全さん。私たち今から大荷物を運ぶのだけど、この通りか弱い女の子二人なの。黒服の人を貸してもらえないかなって。お願いにきました。」
 十全は飽きれたような顔をした。
「君、段々図太くなってくね。いや、もともとの性格なのかな。」
 十全は何事かぶつぶつ呟いていたが、気障な仕草でパチンと指を鳴らした。
 奥の部屋から黒服が三人出てくる。
 彼らを使えということだろう。
「ありがとうございます。十全さん。」
 露子は見るもの全てを虜にするような、美しい笑みで一礼。
 十全はため息一つ。

 黒服三人と礼子と露子で商店街を歩く。
「露子さん、あなたって本当わからないわ。この黒服の人たちってどう見てもヤクザじゃないの。あなた、本当に大丈夫なんでしょうね?」
 ふたりの後ろを歩いてくる黒服をちらちら見ながら礼子は露子に話しかける。
「礼子さん、気にする事無いわ。十全さんは外道だけど、本当は優しい良い人なの。だから、この黒服の人たちも好きに使って大丈夫なのよ。」
 礼子は身震いをしながらもついてくる。
 古道具屋についた。

 木下古道具店(きのしたふるどうぐてん)。
 昭和から続く古い店で店主は二代目の木下さんというおじさんだ。
 毎年、霜月祭のために古道具を貸してくれている。
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