悪魔の花嫁
露子は丁寧に挨拶をして店の奥に通してもらった。
 店舗の奥は倉庫になっていて、かなりの広さがある。
 カビ臭いような何とも言えない古い木の匂いがする。
 実はこの木下古道具店、ただ骨董を扱う店というわけではなく、引っ越しや人死にのあった屋敷にトラックで赴き、家財の処分を受け持つのを本業としている。
 家財の処分にあたって処分料を得る。
 まだ使える家財については修理をしたり、綺麗に磨いて店舗に出すという、いわゆるリサイクル業者の先駆けといったところだ。
 露子はメモに控えてある必要なものを次々と選び、黒服に持たせる。
 店主に台車を借りてお化け屋敷の受付にぴったりの水屋(みずや)を乗せる。
 壊れた蛇の目傘(じゃのめがさ)と破れかぶれの提灯、あとはお化けにぴったりの白い着物、正絹の赤い着物も見つけた。
 着物は綺麗に畳まれていて防虫袋に入っている。なかなか保存状態がいい。
 きっともとは良い物だ。
 これを着て受付をすれば霜月女学院の品位が損なわれるということはないだろう。
 露子が手際よく采配するので礼子は目を丸くしている。
「さすがは元生徒会長といったところね。」
 礼子は感心したように言った。
 黒服にはかなりの量を持たせたが、文句一つ言わず着いてくる。
 店主にお礼を行って学校へ戻る。
 教室まで運び終えると黒服はどろんと消えた。
 礼子は仰天して露子の腕にしがみついて離れない。
 忍者の末裔なんじゃないかしら、なんて適当な事を言って礼子を納得させ、露子の右腕は漸(ようや)く自由になる。
 霜月祭はもうすぐである。




     ¥




 案の定というか、露子の参加することになったミスコンは体育館で行われる。
 生徒は皆、思い思いの私服で着飾ってステージへ並ぶ。
 部活動の宣伝もかねているのか、柔道着や剣道部の袴を着た凛々しい娘にチアガール等々、とにかく目に麗しい光景である。
 なんと、今年はゴスロリの衣装で猫耳をつけた女子までいる。
 どこかで、見た顔だと思えば、加悦にプロポーズされた夜に、カフェ•トリトン
で飲んだ時、女給をしていた娘である。
 耳は自然な様子でピコピコ動いていて柔らかそうだ。
 ひらひらの黒いレースの下から、同じく柔らかそうな黒い尻尾が出て揺れている。
 なかなか可愛い顔をしているが、生徒であるとは知らなかった。
 もしかしたら猫娘とかいう妖怪なのかもしれない。
 霜月市では妖怪だって学校に通うのだ。
 露子は見ない振りである。
 結局、露子はいつも通り制服姿で望む。
 目立ちたくないのもあるが、生徒会の組織票もあるし、露子の優勝は決まったようなものであるからだ。
 壇上に一人一人が立ち、特技や挨拶をする。
 選挙演説のようなスピーチを始める娘もいるのでなかなか面白い。
 露子はというと、マイクの前に立っただけで拍手喝采が起きる。
 拍手が止まないので自分の名前とクラス、好きな教科を言っただけで終わりだ。
 投票用紙が配られ、霜月祭のフィナーレまでに集計されることになる。
 何故か礼子が駆け寄ってきて「あなたが一番綺麗だったわ」と上気した頬を見せる始末。なんだか最近、礼子が可愛く思えてくるから不思議だ。
 霜月祭は二日に分けて行われる。
 ミスコンは一日目の午後であり、人気の演目である。
 過去何度か、女性蔑視だのなんだのと中止も目論まれたが、いずれも失敗に終わっている。
 選ばれた代表が神事に赴くという霜月神社の祭事と密接に関わっている点も理由の一つであろうが。
 結局、皆様、綺麗な若い女の子が好きなのだ。

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