悪魔の花嫁
第一章「女子高生、悪魔に身売りされそう」
如月露子(きさらぎつゆこ)は自分の事を客観的に見て相当の美少女だと自負している。
まっすぐに伸ばした黒髪は今すぐシャンプーのコマーシャルに出てもいいほど輝いているし、真白の肌はマシュマロのよう。猫のように大きな目に長い睫毛。血のように赤い唇はつやつや光り輝いている。
小柄な体は黒いセーラー服に包まれ、女性らしい体の線を最大限に引き出している。
露子が町を歩けば、すれ違う人間八人ぐらいが振り返って露子に釘付けになる。
露子はそんな自分が好きだったし、この霜月商店街一、いや、霜月市中どこを探してもこんな美少女はいないと思っている。
そんな露子であったから、養父の事業が失敗して、父が蒸発。
その上、自分の身柄が何やら黒服の男たちに拘束されている状況でも、彼女は冷静であった。
つまり、父親の借金の形に人買いに売られて、その上、露子のあまりの美少女ぶりから、このまま金持ちの変態親父に売りつけられるのかと、そこまでシミュレートして、あたりを見渡せる程度には。
さて、露子を囲んでいる黒服は皆黒いサングラスをしており、頬に刀傷のあるような男達は、いかにもヤのつく職業の方にしか見えない。
ここは「霜月商店街(しもつきしょうてんがい)おひさまローン」という消費者金融、もとい、サラ金会社の自社ビルの一室である。
事務所は綺麗に片付いており、清潔感あふれる内装だ。
窓辺のブラインドからは朝日が差し込み、観葉植物が柔らかく揺れている。
革張りの応接セットに座らされた露子は出された玉露の茶柱を見ながら、このあと汚い成金親父に売り渡されるのかと考え、逃げ出す機会を伺う。
しかし、ドアの前にも、露子の後ろにも左右にも、うっとうしいほどの黒服がずらりと並び、とてもこんな美少女には勝ち目がない。
露子はため息を吐いて、霜月商店街おひさまローンの社長の訪れを待った。
「あのう、私どうなっちゃうんでしょうね?」
露子の引き攣った笑顔を向けられた黒服は、やはり微動足りともしない。
「社長が来られました。」
黒服がぼそりとつぶやく。
「え?」
奥のドアがキイと軽い音を立てて開いた。
「どろん」という古風な音と共に黒服は消え失せ、そこには細身のグレーのスーツに身を包んだ長身の優男が立っていた。
突然消えた黒服、爽やかに笑ってこちらに歩いてくる金髪の優男。
露子は驚きすぎて声も出ない。
「あれま、可愛らしい女の子だねえ。」
優男はその容姿にあった柔らかな声で応接セットの向こう側に座る。
革張りのソファーはきっと値が張るものだ。
男が向こうに座ると、本革の軋む音が微かにする。
「ああ、神気を感じる。君って随分と、この土地の神様の加護を受けているね。美しいわけだ。いやあ、日本の神様ってほんと依怙贔屓が過ぎると思うよ。」
男は飴色の柔らかな髪を自然にかき上げる。
すっと伸びた鼻梁、ガラスのような緑の瞳。
陶磁器(とうじき)のような、抜けるように白い肌。
よく見ると綺麗な顔をした異国の男である。
人種的には白人のようだが、日本語は流暢である。
優男であるが、手首には成金趣味のでかでかとした金時計を付けて、首にも金のチェーンがまいてある。
指輪もピアスも金だ。
どうみても二十台前半の優男に合う装いではないのは確かであるが、なんとまあ、しっくり似合っている。
「あ、あ、あの!さっきの黒服のヤクザはどこに消えたの?ていうかあなたは誰。」
露子は慌てて質問する。
「悪魔だよ。」
優男は緑の目を細めて笑う。
「は?」
「僕の名前は田中十全(たなかじゅうぜん)、悪魔だ。」
「なに、田中って。」
露子は何だか力が抜ける。
「移民でね、最近この商店街でこの事務所を開いたばかりで、名前も適当に付けたばかりなんだ。僕の事は十全さんか、社長って呼んでおくれ。あと、さっきの黒服は僕の使い魔。君だって漫画とかアニメとかで見るだろう?悪魔が手下を使うシーンとか見た事無い?あんな感じだよ。」
十全は明るく笑うが、露子は笑えない。
「とにかく、君のお父さん、あ、本当のお父さんじゃないのか、とにかく彼が「霜月商店街おひさまローン」で莫大な借金を背負い、蒸発した。娘の君がそのツケを払うのは当然だね。まあ、君に数千万の貯金があるとは思わないけど。」
彼は楽しそうに悪辣(あくらつ)な事を口にする。
「あの、弁護士付けて相続放棄とか出来ると思うんですけど。」
露子はささやかに応戦してみる。
「へえ、悪魔の僕から法律ごときで逃げ出せると思うのかい?」
悪魔め。
露子は心の中で毒づく。
如月露子(きさらぎつゆこ)は自分の事を客観的に見て相当の美少女だと自負している。
まっすぐに伸ばした黒髪は今すぐシャンプーのコマーシャルに出てもいいほど輝いているし、真白の肌はマシュマロのよう。猫のように大きな目に長い睫毛。血のように赤い唇はつやつや光り輝いている。
小柄な体は黒いセーラー服に包まれ、女性らしい体の線を最大限に引き出している。
露子が町を歩けば、すれ違う人間八人ぐらいが振り返って露子に釘付けになる。
露子はそんな自分が好きだったし、この霜月商店街一、いや、霜月市中どこを探してもこんな美少女はいないと思っている。
そんな露子であったから、養父の事業が失敗して、父が蒸発。
その上、自分の身柄が何やら黒服の男たちに拘束されている状況でも、彼女は冷静であった。
つまり、父親の借金の形に人買いに売られて、その上、露子のあまりの美少女ぶりから、このまま金持ちの変態親父に売りつけられるのかと、そこまでシミュレートして、あたりを見渡せる程度には。
さて、露子を囲んでいる黒服は皆黒いサングラスをしており、頬に刀傷のあるような男達は、いかにもヤのつく職業の方にしか見えない。
ここは「霜月商店街(しもつきしょうてんがい)おひさまローン」という消費者金融、もとい、サラ金会社の自社ビルの一室である。
事務所は綺麗に片付いており、清潔感あふれる内装だ。
窓辺のブラインドからは朝日が差し込み、観葉植物が柔らかく揺れている。
革張りの応接セットに座らされた露子は出された玉露の茶柱を見ながら、このあと汚い成金親父に売り渡されるのかと考え、逃げ出す機会を伺う。
しかし、ドアの前にも、露子の後ろにも左右にも、うっとうしいほどの黒服がずらりと並び、とてもこんな美少女には勝ち目がない。
露子はため息を吐いて、霜月商店街おひさまローンの社長の訪れを待った。
「あのう、私どうなっちゃうんでしょうね?」
露子の引き攣った笑顔を向けられた黒服は、やはり微動足りともしない。
「社長が来られました。」
黒服がぼそりとつぶやく。
「え?」
奥のドアがキイと軽い音を立てて開いた。
「どろん」という古風な音と共に黒服は消え失せ、そこには細身のグレーのスーツに身を包んだ長身の優男が立っていた。
突然消えた黒服、爽やかに笑ってこちらに歩いてくる金髪の優男。
露子は驚きすぎて声も出ない。
「あれま、可愛らしい女の子だねえ。」
優男はその容姿にあった柔らかな声で応接セットの向こう側に座る。
革張りのソファーはきっと値が張るものだ。
男が向こうに座ると、本革の軋む音が微かにする。
「ああ、神気を感じる。君って随分と、この土地の神様の加護を受けているね。美しいわけだ。いやあ、日本の神様ってほんと依怙贔屓が過ぎると思うよ。」
男は飴色の柔らかな髪を自然にかき上げる。
すっと伸びた鼻梁、ガラスのような緑の瞳。
陶磁器(とうじき)のような、抜けるように白い肌。
よく見ると綺麗な顔をした異国の男である。
人種的には白人のようだが、日本語は流暢である。
優男であるが、手首には成金趣味のでかでかとした金時計を付けて、首にも金のチェーンがまいてある。
指輪もピアスも金だ。
どうみても二十台前半の優男に合う装いではないのは確かであるが、なんとまあ、しっくり似合っている。
「あ、あ、あの!さっきの黒服のヤクザはどこに消えたの?ていうかあなたは誰。」
露子は慌てて質問する。
「悪魔だよ。」
優男は緑の目を細めて笑う。
「は?」
「僕の名前は田中十全(たなかじゅうぜん)、悪魔だ。」
「なに、田中って。」
露子は何だか力が抜ける。
「移民でね、最近この商店街でこの事務所を開いたばかりで、名前も適当に付けたばかりなんだ。僕の事は十全さんか、社長って呼んでおくれ。あと、さっきの黒服は僕の使い魔。君だって漫画とかアニメとかで見るだろう?悪魔が手下を使うシーンとか見た事無い?あんな感じだよ。」
十全は明るく笑うが、露子は笑えない。
「とにかく、君のお父さん、あ、本当のお父さんじゃないのか、とにかく彼が「霜月商店街おひさまローン」で莫大な借金を背負い、蒸発した。娘の君がそのツケを払うのは当然だね。まあ、君に数千万の貯金があるとは思わないけど。」
彼は楽しそうに悪辣(あくらつ)な事を口にする。
「あの、弁護士付けて相続放棄とか出来ると思うんですけど。」
露子はささやかに応戦してみる。
「へえ、悪魔の僕から法律ごときで逃げ出せると思うのかい?」
悪魔め。
露子は心の中で毒づく。