犬猿だったはずの同期に甘く誘惑されたら




「はぁーあ。自制してたのに。
お前ってやつはなんでそんなに…。」



浅香の言葉を遮るようにして、コーヒーメーカーが淹れ終わったことをアラームで知らせた。


とりあえず浅香の独り言みたいな言葉は無視してコーヒーを注ぐために私は浅香に背を向けた。



薄めにセットしただけあって、いつもよりも透き通った色のコーヒーが浅香のマグカップに注がれた。


綺麗な色だな〜。たまには薄めもいいかもしれない。


なんて思っているのもつかの間。
ふわっと浅香の香りがして、私の背中に浅香の熱が伝わった。



「もー。可愛すぎなんだけど。
我慢してたのに。お前が悪い」



そんなことを耳元で言われても、私の頭はとにかくパニック状態。
何がどうなってこうなっているのか。
後ろから抱きしめられているこの状況を理解するのには、かなり時間がかかった。



「浅香?」


「ん?」



優しいトーンで私の耳に直で伝わってくる浅香の声。
少しは勇気をだして、たまには可愛げのあることを言ってみてもいいのかもしれない。



雰囲気に押された。自分の気持ちに押された。



「今日のプレゼン。がんばってね」




< 209 / 259 >

この作品をシェア

pagetop