夏の魔法
琥白に初めて会った日に家に帰ると、母が僕の頬を叩いた。僕らは決められた時間に帰らないと、母がこうやって僕の頬を叩く。理由は知らないけど。
叩かれた衝撃で英太の方向へと吹き飛んだ。英太は、僕を上手く受け止め、「大丈夫?」と問いかけてくる。
父は「美影が吹き飛ぶ程に強く叩くなよ、かわいそう」と近くで笑っている。
毎回そうだった。決められた時間までに帰って来れば、叩かれることはない。叩かれるのが嫌で出来るだけ早めに帰って来ていた。出来るだけ、2人で。僕らは、こんな生活が嫌だった。
あれから数ヶ月が経った休日のある日、僕は1人で公園の近くを歩いていると、1人の少年が僕を見つけたのか、僕に近づいてくる。良く少年を見てみると、琥白だった。
「よう!えっと…美影か?」
琥白は僕と英太を見抜けるようになったらしい。
「琥白か。良く分かったね」
「だろ!」
「英太は、どこに居るんだ?」
僕は、後ろを見ずに「あそこ」と親指を後ろへ突き出す。僕が指したのは、僕の家の近くにある公園。僕と英太は、この公園に遊びに来ていた。
「美影は何で、こんな所に居るんだ?」
「僕は、気分転換でここに来ただけだよ」
琥白を連れて公園に戻ってくると、英太が近寄ってきた。
「ねぇ、琥白も遊ぼ!」
英太が微笑むと、僕は、時間を確認した。後、2時間…か。
「いいぞ」
僕らは、琥白と遊ぶ。琥白と遊ぶ時間がとても楽しく、僕らは、決められた時間を過ぎていたことに気が付かなかった。