夏の魔法



僕は、ゆっくりと通学路を歩いていた。

「美影~!」

聞きなれた声が聞こえる。声がした方向を見ると、氷翠(ひすい)が僕に向かって手を振っている。

僕は、笑顔で振り返す。氷翠は、僕の恋人。

「おはよう」と、近寄ってきた氷翠に声をかけると、氷翠も「おはよう」と返した。氷翠といると、心が落ち着く。生みの親のことなどを忘れることが出来る、そんな気がするほど。

「…今日、テスト結果出るよね」

僕の隣を歩く氷翠が、僕を見た。その目を見た僕は、氷翠が言いたいことを読み取った。

僕達が通う魔法学校では、魔法演習という授業の小テストが定期的に行われ、長期休みの前になると、点数がまとめて出される(満点は100点)。今日がテスト結果が出る日なのだ。

教室に着き、荷物を片付けた僕は、「勝負しようか…?」と微笑んだ。氷翠は、目で「勝負したい」と言いたかったんだろう。

「勝負しよう」

「勝負したいなら、素直に言えば良いのに…」

僕の問いに、氷翠が即答した。僕と氷翠は、毎回、点数で勝負をしている。僕は、2回も数点差で負けていた。

「ごめんって」と言って、氷翠は笑った。

氷翠は、突然「あの先生さ」と言った。

「厳しいよね」

笑顔を崩さずに、氷翠がそう言った。

「厳しいけど、良い先生だよね」

僕も笑った。氷翠は、「それ!」と言ってうなずいた。氷翠と居る時間が楽しかった。もっと話していたかった。しかし、授業が始まるチャイムが鳴り、僕は慌てて席に着いた。

その様子を見ていた男子生徒から色んな視線が突き刺さる。それが、昔の両親と重なって見えた。
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