キミと歌う恋の歌
傷の手当てが終わる頃には私の手足は包帯だらけになっていた。
顔にも大きな絆創膏を貼られていて、鏡で自分の姿を見ると、戦から帰ってきたばかりのようだった。
レオがお風呂に入っている間に、私は居間のテーブルを借りて歌詞ノートに向かっていた。
実を言うと、みんなに了承をとる前から新しい歌詞のイメージはできていたので、車に乗って移動している間に大枠はできていた。
伴奏はそのままだから、あまり悩む必要もなく、最後の仕上げと見直しのつもりで、新しいページに書き上げた。
普段通りに歌うわけにもいかないので、ハミング程度にできたばかりの歌詞を乗せて歌っていると、レオが髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。
髪が濡れて、少し頬を上気させているレオは自然体で、ファンクラブの女の子たちが見たら卒倒してしまいそうだ。
ただ首を振って髪の水気を飛ばしている姿も絵になってしまう。
「歌詞できた?」
「あ、うん。大体できたから今確認してて、見てもらってもいいかな?」
「お、見せて。あーてか部屋移動するか。ちょっとついてきて」
ノートを差し出そうとすると、レオに制された。
戸惑いながらも頷くと、レオが「こっち」と言って廊下に出て、スタスタと歩いていく。
先の見えない廊下をだいぶ進んだ先にあったドアの一つをレオが開くと、中は防音の作りになっていて、ギターが数本並んでかけられていて、大きなスピーカーが部屋の中央に置かれていた。
「…これ、防音室?」
しばらく驚きで声も出なかったが、平然と中に入り、ギターを構えて床に座り込んでしまったレオに聞くと、キョトンとした顔で「ああ」と頷かれた。
「な、なんでそんな部屋が、」
ここまで大きな家だし、スペースが有り余って娯楽で作ってみたりしたんだろうか。
いやそれにしても大きすぎる。
それに、中をじっと見回すと、隅には埃被ってはいるが、ドラムやピアノ、キーボードなどの他の楽器も置かれている。
というか、そもそもどうしてレオの家はこんなに大きいのだろう。
何も考えていなかったけど、おばあちゃんとレオしか住んでいないのはなぜだろう。
他のご家族は留守なんだろうか。
一つ疑問が浮かぶと次々に浮かんできて、いつの間にか握りしめていたノートが汗で湿っていた。
「あ、アイに言ってなかったっけ?俺のばあちゃん元昭和アイドルで、死んだじいちゃんが作曲家だったんだよ。
この音楽室はじいちゃんが使ってたの」
至って軽い口調でレオはそんな驚くべき事実を明かした。
目を見開いてのけぞることしかできない私を気にすることなくレオは続けた。
「まあでもそこのドラマとかキーボードは壊れちゃってさー。なかなか練習には使えないんだよなー」
「お、おばあさんは元アイドルだったの?」
「え、あ、まだそこ?」
私がやっと発した言葉にレオは拍子抜けしている様子だけど、絶対にそこだろう。
「もうだいぶ前に引退してるけどね。昔は結構有名だったらしいよ、じいちゃんも"ツバキの香り"とか知ってる?」
「し、知ってる!翔太さんのお店で何度か聞いた!」
「それの作曲がじいちゃん」
「そうなんだ!わあ、すごいなーすごく素敵な歌だよね。それにおばあさん凄く綺麗だと思ったら、アイドルだったんだね…」
おばあさんの美しさにも合点がいったが、それと同時にレオのこれまでの言動も振り返って納得していた。
仮にも私の姉はあの、今をときめく若手女優の代表格である戸田美愛だ。
それでも、レオは全く臆する様子なく接していた。
あのポーカーフェイスが特徴の津神くんですら、初めは少し気が引けていたような気がする。
いくらレオが芸能人に引けを取らないオーラを放っていたとしても、現時点ではレオだってただの一般人。
それなのにどうしてと疑問に思っていたが、
近くに偉大な作曲家と昭和アイドルがいたのであれば、それは当然あの反応になるだろう。
疑問の答え合わせができてすっきりしていると、レオは少し自嘲気味に笑った。
「だから音楽の才能があるんだね、とか言わないんだな」
そう言って、じっと見上げられた。
レオの言っている意味がわからない。
「なんで?おじいさんやおばあさんの才能もすごいけれど、レオの才能はそのおかげなんかじゃなくて、レオだけのものだよ。
才能ある人たちの元に生まれたからって誰もがそうなるとは限らないし。私なんかまさにそれだよ」
レオの言葉の意図が読めず、首を傾げながら答えると、レオは吹き出したように笑った。
「アイらしいな。ありがとう。
でも、アイに才能がないのは勘違いだよ」
「だったらいいけど…」
「さあ、じゃ、歌詞見せてくれ。今日は夜更かしだ」
「うん!ご迷惑かけますが、お願いします」
「なんだその丁寧語」
それまで読めない表情を浮かべていたレアだったが、ようやく意図せずも私の言葉に笑ってくれたので、私もつられて笑った。
レオが一通り歌詞ノートに目を通した後、実際に歌う前に一度修正をし、レオのギター伴奏に合わせて歌い始めた。
顔にも大きな絆創膏を貼られていて、鏡で自分の姿を見ると、戦から帰ってきたばかりのようだった。
レオがお風呂に入っている間に、私は居間のテーブルを借りて歌詞ノートに向かっていた。
実を言うと、みんなに了承をとる前から新しい歌詞のイメージはできていたので、車に乗って移動している間に大枠はできていた。
伴奏はそのままだから、あまり悩む必要もなく、最後の仕上げと見直しのつもりで、新しいページに書き上げた。
普段通りに歌うわけにもいかないので、ハミング程度にできたばかりの歌詞を乗せて歌っていると、レオが髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。
髪が濡れて、少し頬を上気させているレオは自然体で、ファンクラブの女の子たちが見たら卒倒してしまいそうだ。
ただ首を振って髪の水気を飛ばしている姿も絵になってしまう。
「歌詞できた?」
「あ、うん。大体できたから今確認してて、見てもらってもいいかな?」
「お、見せて。あーてか部屋移動するか。ちょっとついてきて」
ノートを差し出そうとすると、レオに制された。
戸惑いながらも頷くと、レオが「こっち」と言って廊下に出て、スタスタと歩いていく。
先の見えない廊下をだいぶ進んだ先にあったドアの一つをレオが開くと、中は防音の作りになっていて、ギターが数本並んでかけられていて、大きなスピーカーが部屋の中央に置かれていた。
「…これ、防音室?」
しばらく驚きで声も出なかったが、平然と中に入り、ギターを構えて床に座り込んでしまったレオに聞くと、キョトンとした顔で「ああ」と頷かれた。
「な、なんでそんな部屋が、」
ここまで大きな家だし、スペースが有り余って娯楽で作ってみたりしたんだろうか。
いやそれにしても大きすぎる。
それに、中をじっと見回すと、隅には埃被ってはいるが、ドラムやピアノ、キーボードなどの他の楽器も置かれている。
というか、そもそもどうしてレオの家はこんなに大きいのだろう。
何も考えていなかったけど、おばあちゃんとレオしか住んでいないのはなぜだろう。
他のご家族は留守なんだろうか。
一つ疑問が浮かぶと次々に浮かんできて、いつの間にか握りしめていたノートが汗で湿っていた。
「あ、アイに言ってなかったっけ?俺のばあちゃん元昭和アイドルで、死んだじいちゃんが作曲家だったんだよ。
この音楽室はじいちゃんが使ってたの」
至って軽い口調でレオはそんな驚くべき事実を明かした。
目を見開いてのけぞることしかできない私を気にすることなくレオは続けた。
「まあでもそこのドラマとかキーボードは壊れちゃってさー。なかなか練習には使えないんだよなー」
「お、おばあさんは元アイドルだったの?」
「え、あ、まだそこ?」
私がやっと発した言葉にレオは拍子抜けしている様子だけど、絶対にそこだろう。
「もうだいぶ前に引退してるけどね。昔は結構有名だったらしいよ、じいちゃんも"ツバキの香り"とか知ってる?」
「し、知ってる!翔太さんのお店で何度か聞いた!」
「それの作曲がじいちゃん」
「そうなんだ!わあ、すごいなーすごく素敵な歌だよね。それにおばあさん凄く綺麗だと思ったら、アイドルだったんだね…」
おばあさんの美しさにも合点がいったが、それと同時にレオのこれまでの言動も振り返って納得していた。
仮にも私の姉はあの、今をときめく若手女優の代表格である戸田美愛だ。
それでも、レオは全く臆する様子なく接していた。
あのポーカーフェイスが特徴の津神くんですら、初めは少し気が引けていたような気がする。
いくらレオが芸能人に引けを取らないオーラを放っていたとしても、現時点ではレオだってただの一般人。
それなのにどうしてと疑問に思っていたが、
近くに偉大な作曲家と昭和アイドルがいたのであれば、それは当然あの反応になるだろう。
疑問の答え合わせができてすっきりしていると、レオは少し自嘲気味に笑った。
「だから音楽の才能があるんだね、とか言わないんだな」
そう言って、じっと見上げられた。
レオの言っている意味がわからない。
「なんで?おじいさんやおばあさんの才能もすごいけれど、レオの才能はそのおかげなんかじゃなくて、レオだけのものだよ。
才能ある人たちの元に生まれたからって誰もがそうなるとは限らないし。私なんかまさにそれだよ」
レオの言葉の意図が読めず、首を傾げながら答えると、レオは吹き出したように笑った。
「アイらしいな。ありがとう。
でも、アイに才能がないのは勘違いだよ」
「だったらいいけど…」
「さあ、じゃ、歌詞見せてくれ。今日は夜更かしだ」
「うん!ご迷惑かけますが、お願いします」
「なんだその丁寧語」
それまで読めない表情を浮かべていたレアだったが、ようやく意図せずも私の言葉に笑ってくれたので、私もつられて笑った。
レオが一通り歌詞ノートに目を通した後、実際に歌う前に一度修正をし、レオのギター伴奏に合わせて歌い始めた。