キミと歌う恋の歌
開会式の最後に吹奏楽部の演奏があり、それが終わるといよいよ文化祭本番のスタートだ。
体育館を出ると、前にある大きな広場で上級生たちが出店の準備を早速始めており、クラスメイトたちが早々にそこに並んでいる様子もある。
体育館の中では、最初に演劇部による劇がトータルで2時間半の枠を抑えているらしく、ステージの上が慌ただしくなっていた。
あの劇が終われば、私たちの出番だ。
また、校門の方からは保護者や他校の生徒など、一般客が入り始めている。
至る所を見回して非日常のドキドキ感に1人で高揚していると、後ろから肩を叩かれた。
「アイ!一旦ミーティングな!」
すでに他の3人を引き連れたレオだ。
全校生徒のほとんどが普段よりおしゃれだ派手な格好をしていても、いつも通りに制服を着こなしているだけのこの4人が揃うだけでパッと輝く。
他校の生徒も彼らを目的に来ているのか、周りで飛び跳ねて黄色い悲鳴をあげている。
本当に私とんでもないバンドに入っちゃったもんだな、
今更ながら心の底から自覚する。
ミーティングの場所は昼休みに毎度使っている音楽室だ。
ステージの時間帯、機材の準備、曲紹介のセリフなど大方をはじめから確認し直した。
私はリハーサルに参加できていないから、言葉だけの知識で動かなければいけないので、誰よりも注意深く聞いておいた。
ただでさえ、記憶力も理解力も乏しいから致命的だ。
その後、1時間ほどはそのまま楽譜を片手に注意点をさらっていったが、タカさんとメルはステージ横に置いてあるドラムやキーボードの近くで集中したいと体育館にひと足先に向かった。
私とレオと津神くんは音楽室に残って、私はとにかく発声練習、レオと津神くんも各自でチューニングを済ませたり、一通り弾いて練習をしていた。
出番の1時間前になったところで、レオが時計をちらりと見て「そろそろ行くか」と呟いた。
その途端、気づいていないふりをしていた緊張が体中を駆け巡って、心臓がバクバクと鳴り始めた。
手足が震えて、胃が痛くなってくる。
だめだ、落ち着け。
今更こんなの無駄だって。
平常を装って返事をしたけど、思うように足が動かず一歩目が踏み出せない。
もう、なんで言うこと聞いてくれないの、
自分に対する怒りで瞳が潤んだ時、手に突然温もりを感じた。
はっと顔を上げると、レオが私の手をその手で握って微笑んでいる。
「緊張は悪いことじゃない。アイは初めての舞台なんだから当然だよ」
「で、でも、もしかしたら声が震えて裏返ったり、歌詞が飛んだらどうしよう」
途端に堪えていた心配事が溢れ出す。
だけど、レオは気にするなと首を振った。
「大丈夫だって。アイは絶対大丈夫だ」
「で、でも」
「ミスったってその後取り返せばいいだろ」
今度は津神くんが、こちらに背を向けてベースをケースに戻しながら言った。
だんだんと胸の鼓動が落ち着いてくる。
「よし、じゃあアイは今日の歌を絶対に届けたい人はいる?」
「う、うん。翔太さんに、教頭先生、それからレオのおばあちゃんでしょ。それと、クラスメイトの結城さんたち」
「まず一曲目はその人たちだけに届くように歌おう。その人たちは絶対にアイの味方だろ。ちょっとくらいミスったってアイが精一杯歌えば大丈夫だ」
レオに言われて、翔太さんたちの顔を思い浮かべた。
彼らは誰も私の敵ではない。
批判しようと見に来るわけじゃない。
私のことを見に来てくれる。
いつの間にか手足の震えもおさまり、体を締め付けていたものもなくなって軽やかになっていた。
「落ち着いた?」
「うん。…ありがとう」
「よっしゃ、じゃあ行こう。メルとタカが待ってる」
レオがギターを背負って、勢いよく音楽室の扉を開けた。
勇気を持って一歩踏み出す。
私1人では絶対無理だけど、私には力強い味方が4人もついている。
もう大丈夫だ。
体育館に到着し、声を顰めてメルたちと合流した。
すると、レオはみんなに4等分した包帯を渡した。
レオは左腕に、
メルは右足に、
津神くんは左腕に、
タカさんは首にそれを巻いた。
絶対に演奏の邪魔にならないようにと、調整し終わって後に、お互いの姿を見て思わず吹き出す。
「やばっ、ダサすぎ!」
メルが小声で言った。
「まあいいだろ。デビューした時こういう過去があった方が面白いだろ」
満足げにそう話すレオに、ちょっと呆れた顔で笑うタカさん。
津神くんはやっぱり無理しているようで、自分の左腕を凝視してため息をついている。
突然わあっと体育館中が拍手の音で包まれた。
劇が終わったようだ。
「よし、お前ら集まれ」
レオがそう言って、私たちは肩を寄せ合って円を作った。
「いいか、これが俺たちTREASOMの初ステージだ。
この先何ドライブをやったって初ステージはもう二度とできないんだ。悔いのないようにやろう。
俺たちなら大丈夫だ。
全員の度肝抜かしてやろうぜ」
強気な言葉に、みんなが笑う。
レオが言えば絶対にそうなる気がしてくるから不思議だ。
そしてレオは私の目を見て続けて言った。
「アイ、ボーカルを引き受けてくれてありがとう。
もうお前を否定するものなんて何もない。
好きなように暴れてやれ」
そう言ってレオはニヤッと笑った。
みんなの顔を見回すと、それぞれ力強く頷いてくれた。
私もそんなみんなに力強く頷き返した。
「機材セットいきます!」
役員の人に声をかけられ、私たちは足並みを揃えて勢いよくステージに駆け出した。
体育館を出ると、前にある大きな広場で上級生たちが出店の準備を早速始めており、クラスメイトたちが早々にそこに並んでいる様子もある。
体育館の中では、最初に演劇部による劇がトータルで2時間半の枠を抑えているらしく、ステージの上が慌ただしくなっていた。
あの劇が終われば、私たちの出番だ。
また、校門の方からは保護者や他校の生徒など、一般客が入り始めている。
至る所を見回して非日常のドキドキ感に1人で高揚していると、後ろから肩を叩かれた。
「アイ!一旦ミーティングな!」
すでに他の3人を引き連れたレオだ。
全校生徒のほとんどが普段よりおしゃれだ派手な格好をしていても、いつも通りに制服を着こなしているだけのこの4人が揃うだけでパッと輝く。
他校の生徒も彼らを目的に来ているのか、周りで飛び跳ねて黄色い悲鳴をあげている。
本当に私とんでもないバンドに入っちゃったもんだな、
今更ながら心の底から自覚する。
ミーティングの場所は昼休みに毎度使っている音楽室だ。
ステージの時間帯、機材の準備、曲紹介のセリフなど大方をはじめから確認し直した。
私はリハーサルに参加できていないから、言葉だけの知識で動かなければいけないので、誰よりも注意深く聞いておいた。
ただでさえ、記憶力も理解力も乏しいから致命的だ。
その後、1時間ほどはそのまま楽譜を片手に注意点をさらっていったが、タカさんとメルはステージ横に置いてあるドラムやキーボードの近くで集中したいと体育館にひと足先に向かった。
私とレオと津神くんは音楽室に残って、私はとにかく発声練習、レオと津神くんも各自でチューニングを済ませたり、一通り弾いて練習をしていた。
出番の1時間前になったところで、レオが時計をちらりと見て「そろそろ行くか」と呟いた。
その途端、気づいていないふりをしていた緊張が体中を駆け巡って、心臓がバクバクと鳴り始めた。
手足が震えて、胃が痛くなってくる。
だめだ、落ち着け。
今更こんなの無駄だって。
平常を装って返事をしたけど、思うように足が動かず一歩目が踏み出せない。
もう、なんで言うこと聞いてくれないの、
自分に対する怒りで瞳が潤んだ時、手に突然温もりを感じた。
はっと顔を上げると、レオが私の手をその手で握って微笑んでいる。
「緊張は悪いことじゃない。アイは初めての舞台なんだから当然だよ」
「で、でも、もしかしたら声が震えて裏返ったり、歌詞が飛んだらどうしよう」
途端に堪えていた心配事が溢れ出す。
だけど、レオは気にするなと首を振った。
「大丈夫だって。アイは絶対大丈夫だ」
「で、でも」
「ミスったってその後取り返せばいいだろ」
今度は津神くんが、こちらに背を向けてベースをケースに戻しながら言った。
だんだんと胸の鼓動が落ち着いてくる。
「よし、じゃあアイは今日の歌を絶対に届けたい人はいる?」
「う、うん。翔太さんに、教頭先生、それからレオのおばあちゃんでしょ。それと、クラスメイトの結城さんたち」
「まず一曲目はその人たちだけに届くように歌おう。その人たちは絶対にアイの味方だろ。ちょっとくらいミスったってアイが精一杯歌えば大丈夫だ」
レオに言われて、翔太さんたちの顔を思い浮かべた。
彼らは誰も私の敵ではない。
批判しようと見に来るわけじゃない。
私のことを見に来てくれる。
いつの間にか手足の震えもおさまり、体を締め付けていたものもなくなって軽やかになっていた。
「落ち着いた?」
「うん。…ありがとう」
「よっしゃ、じゃあ行こう。メルとタカが待ってる」
レオがギターを背負って、勢いよく音楽室の扉を開けた。
勇気を持って一歩踏み出す。
私1人では絶対無理だけど、私には力強い味方が4人もついている。
もう大丈夫だ。
体育館に到着し、声を顰めてメルたちと合流した。
すると、レオはみんなに4等分した包帯を渡した。
レオは左腕に、
メルは右足に、
津神くんは左腕に、
タカさんは首にそれを巻いた。
絶対に演奏の邪魔にならないようにと、調整し終わって後に、お互いの姿を見て思わず吹き出す。
「やばっ、ダサすぎ!」
メルが小声で言った。
「まあいいだろ。デビューした時こういう過去があった方が面白いだろ」
満足げにそう話すレオに、ちょっと呆れた顔で笑うタカさん。
津神くんはやっぱり無理しているようで、自分の左腕を凝視してため息をついている。
突然わあっと体育館中が拍手の音で包まれた。
劇が終わったようだ。
「よし、お前ら集まれ」
レオがそう言って、私たちは肩を寄せ合って円を作った。
「いいか、これが俺たちTREASOMの初ステージだ。
この先何ドライブをやったって初ステージはもう二度とできないんだ。悔いのないようにやろう。
俺たちなら大丈夫だ。
全員の度肝抜かしてやろうぜ」
強気な言葉に、みんなが笑う。
レオが言えば絶対にそうなる気がしてくるから不思議だ。
そしてレオは私の目を見て続けて言った。
「アイ、ボーカルを引き受けてくれてありがとう。
もうお前を否定するものなんて何もない。
好きなように暴れてやれ」
そう言ってレオはニヤッと笑った。
みんなの顔を見回すと、それぞれ力強く頷いてくれた。
私もそんなみんなに力強く頷き返した。
「機材セットいきます!」
役員の人に声をかけられ、私たちは足並みを揃えて勢いよくステージに駆け出した。