キミと歌う恋の歌
結局レオたちとファンとの交流会は1時間ほど経って、それまで黙認していた先生たちが痺れを切らして乗り込んでくるまで続いた。

やっと解放された頃にはさすがのレオも笑顔を忘れて大きなため息をついていたし、津神くんに関しては逃げ出す一歩手前だったと思う。

集団から解放されたレオ達が私と翔太さんに気づいてぞろぞろと近づいてきた。


「よお、翔太どうだったよ俺たちの初ステージ」


「お疲れ。すごかったけど、今俺はお前らのアイドル並みの人気にちょっとイラついてるよ」


「代わってやろうか?」


「…遠慮しとくわ」


「メル生きてるかー?」


「…なんとか」


あんなに最高のステージを作った後の雰囲気とは思えないほど地獄帰りのような様子の4人に人気がありすぎるというのも困ったものだなとしみじみと思う。


すっかりぬるくなってしまったであろうスポーツ飲料を翔太さんが4人に手渡すと、みんな無我夢中で飲み干していた。


「はあー…知名度が上がればデビューまでの近道になると思って見境なく受け入れてたけど、結構しんどいな」


空になったペットボトルを弄びながらレオが言った。


「俺は二度とあんな真似しない」


苦虫を噛み潰したような表情で津神くんが呟く。


しばらくその場で休憩して、一度体育館の演目の間に30分の空き時間が入るということで、機材を運び出すためにそのまま翔太さんの車に積み込むことになった。


体育館の中の人がまばらになったのを確認して、入ろうとしたところで、後ろから「あっ!」と翔太さんが大きな声を出してみんなが足を止めた。


「どうした翔太」


疲れ切った様子のタカさんが振り向いて尋ねると、翔太さんがニカっと歯を見せて笑った。


「どうせならお前ら5人の写真も撮っとこうぜ」


そう言って、スマホをひらひらと揺らして見せた。


それまで一言も喋らず死んだ魚のような目をしていたメルがツインテールを揺らして、上まで登っていた階段をぴょんっと跳ねて下まで降りた。


「それいい!翔太さん最高!」


「だろー?ほらお前らも早く来いよ」


メルの強い同意を受けた翔太さんは得意げな表情で手招きをした。


「確かに5人でまだ写真撮ったことないな」


「そういや、俺も母ちゃんに写真撮ってこいって言われてたわ」


乗り気で階段を降りていくレオとタカさん、そして、その後ろを気怠げに着いていく津神くん。

メルに「アイも早く!」と呼ばれて、私も慌てて階段を降りてメルの隣に移動した。

すでに翔太さんは少し離れた位置からスマホを構えていて、「くっついてー」と画面をチェックしながら細かく指示を出している。

私はメルに腕を掴まれて、引っ張られるままに着いていく。


すると、いつの間にか私が中央、左隣に私の腕にがっちりと手を回すメル、その隣にすでに笑顔でポーズを決めているタカさん、逆側にレオ、津神くんの並びになっていた。


あってはならないことだ。


「え、いや、私が中央は、メ、メルが行きなよ!」


「えーいいよー翔太さんお願い!」


「おう!」


「ええ!そ、そんな荷が重い」


「うるせえ、黙ってろ」


「そ、そんな」


「またソウジはもうちょっと優しい言葉遣いを覚えなさい。そして、アイもいい加減ソウジに言い返していいんだぞ」


「はは!アイ諦めろ。今日の主役はお前だよ」


楽しそうに笑うレオが私の肩に腕を軽く乗せて、逆側の腕をまっすぐに伸ばしてピースを決めた。


やっぱりこんなメンバーの真ん中というのはどうしたって荷が重すぎるが、居心地は最高だ。

いつまでもここにいたいと願ってしまう。

隣で満面の笑みを浮かべるメルとレオを見て、私も精一杯口角を上げて前を向いた。


「よーし動くなよー。はい、チーズ!」


雲ひとつない快晴の空に、シャッター音が一つ響いた。








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