キミと歌う恋の歌
片付けを終えてからは、タカさんはクラスのお友達と合流する予定があると言って別れ、津神くんは「疲れた、寝る」と言い残して去っていった。
残された私とメルとレオはせっかくだからと文化祭を回って楽しむことにした。
出店を巡り、食べ物や飲み物を購入して腹ペコのお腹を満たした後は、校舎内で行われている出し物を見て回った。
お化け屋敷やビンゴ大会など、これまで経験したことのないレクリエーションをいくつも楽しんだ。
レオとメルのクラスのオブジェも見に行ったけど、私のクラスの投げやりなモザイクアートとは違い、素敵な作品でしばらく見惚れてしまった。
しかし、ただ歩いているだけでもレオとメルは見つけられて呼び止められるので、最終的に2人はバザーをやっていたクラスで買ったお面や帽子で顔を隠す羽目になっていた。
側から見たら不審者のような2人と一緒に歩く自分の図がおかしくて2人の顔を見るたびに笑ってしまった。
十分すぎるほどに楽しんだ文化祭だったが、何にでも終わりは来るもので、太陽が傾き始めると、校門からはゾロゾロと一般客が帰って行き、私たちは閉会式のため体育館に再び集められた。
昨日の寝不足も祟って、さすがに疲れ切ってしまい、校長先生の話も今日は苦痛だった。
立ったままうつらうつらと微睡に襲われる。
閉会式を終えると、一旦教室に散って軽くHRをして、全日程が終了した。
片付けは週明けなので、一目散に帰っていくクラスメイトたち。
盗み聞きした話によれば、着飾った姿で今日は仲のいいメンバーでプリクラを撮りに行ったり、遊びに行く人ばかりらしい。
横をすり抜けていくクラスメイトたちを横目に、通学バッグを肩にかけて、窓から夕焼け空を眺めた。
学校を出たら全てが終わってしまいそうで、悲しい。
楽しいとか、嬉しいとか、私が知っている言葉で表現できないほどの時間だった。
どれほど時間が経っただろうか。
「おい」
低い声が後ろから聞こえて振り返ると、バッグを肩にかけて真っ直ぐ私の目を見る津神くんがいた。
「あ、戻ってきてたんですね。さっきまで姿が見えなかったから」
「さっき起きた」
歌の練習以外で津神くんとこうやって2人っきりで話すのはファミレスで私の態度を指摘されて以来だろうか。
影がちょうど津神くんの顔に当たって、その表情ははっきり見えない。
「あの、遅くなっちゃったんですけど、昨日は助けに来てくださってありがとうございました。
それと、これまでたくさん迷惑かけてすみませんでした」
深く頭を下げたけど、返事は返ってこない。
津神くんの気持ちは本当に推し量るのが難しい。
「後からみんなにも話すつもりなんですけど、私行政を頼ってみようと思います。
今日はこの後児童相談所に行ってみようかなって。
どうせ意味がないって最初から諦めてたけど、やってみないとわからないですよね。
ちゃんと自分の口で助けを求めてみることにします。
だから、昨日私の家に話に行くって言ってくれてたけど、あの、もう大丈夫ですから」
沈黙に耐えきれず、あとでレオたちと一緒に話そうと思っていた話をひと足先に津神くんに打ち明けた。
しかし、
「ヘラヘラすんなよ」
鋭い目線を私に向けて津神くんは言った。
最後まで、津神くんと心通わせることはできなかったなと落ち込みつつ、もう一度頭を下げた。
「あ、す、すみません」
「俺は、」
津神くんが何かを言いかけた時、教室のドアが勢いよく開いた。
そして、足音を大きく鳴らして、「アイー!」と叫びながら、メルが一目散に駆け込んできた。
津神くんは一瞬のうちにげっそりとした表情に変わり、メルの方を見ている。
そして、津神くんに掴まれている私の腕を目視したメルはギロリと津神くんを睨みつけ、大股で近づいてきた。
「何してんのよ」
津神くんは舌打ちをして、睨みつけるメルから視線を逸らした。
「お前に関係ないだろ」
「ありますぅー、アイ何かされたの?」
「いっ、いや!何もされないよ。それよりメルどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、今日は「「打ち上げ」だー!」
メルとぴったり声を揃えて叫んだのは、叫ぶと同時に教室に滑り込んできたレオだった。
よく見ると後ろにタカさんを引き連れてきている。
「う、打ち上げ?」
何も聞いていなかったので、驚いて素っ頓狂な声で繰り返すと、レオは満面の笑みで大きく頷いた。
「そう!ばあちゃんがご馳走用意してるからみんなで来いだってさ」
目を輝かせて、子どものように落ち着きのないレオ。
今日一日我慢することが多かった反動だろうか。
「おばあさんが?え、でも私」
「なんか予定でもあるのか?」
言い淀むと、レオは即座に不満げな顔をして問い詰めてきた。
「あ、えっと」
津神くんの顔を見たが、プイッと視線を背けられる。
まあ、打ち上げに参加してからみんなに話すのでもいいだろう。
雰囲気を壊すのは申し訳ない。
思い直して、首を振った。
「いや何でもないよ。
今日も押しかけちゃっていいのかな」
「いいよいいよ。こいつらなんて呼んでもないのにしょっちゅう来るしな」
「はあ?誰のこと?」
放っとくとまた小競り合いを始める2人に苦笑いをしていると、突っ込む気力も失ったのか、タカさんが「ほら行くぞー」と言いながら、疲れた顔で教室を出た。
「ほら、アイ行こ!」と、メルに腕を組まれて、タカさんの後ろをついて私たちも教室を出る。
後ろをチラリと見ると、レオに引っ張られて津神くんもついてきている。
『俺、』の後何を言いかけていたんだろう。
これまでを振り返るとあまりいい予感は浮かばないけど、あとで時間があれば聞き直したい。
残された私とメルとレオはせっかくだからと文化祭を回って楽しむことにした。
出店を巡り、食べ物や飲み物を購入して腹ペコのお腹を満たした後は、校舎内で行われている出し物を見て回った。
お化け屋敷やビンゴ大会など、これまで経験したことのないレクリエーションをいくつも楽しんだ。
レオとメルのクラスのオブジェも見に行ったけど、私のクラスの投げやりなモザイクアートとは違い、素敵な作品でしばらく見惚れてしまった。
しかし、ただ歩いているだけでもレオとメルは見つけられて呼び止められるので、最終的に2人はバザーをやっていたクラスで買ったお面や帽子で顔を隠す羽目になっていた。
側から見たら不審者のような2人と一緒に歩く自分の図がおかしくて2人の顔を見るたびに笑ってしまった。
十分すぎるほどに楽しんだ文化祭だったが、何にでも終わりは来るもので、太陽が傾き始めると、校門からはゾロゾロと一般客が帰って行き、私たちは閉会式のため体育館に再び集められた。
昨日の寝不足も祟って、さすがに疲れ切ってしまい、校長先生の話も今日は苦痛だった。
立ったままうつらうつらと微睡に襲われる。
閉会式を終えると、一旦教室に散って軽くHRをして、全日程が終了した。
片付けは週明けなので、一目散に帰っていくクラスメイトたち。
盗み聞きした話によれば、着飾った姿で今日は仲のいいメンバーでプリクラを撮りに行ったり、遊びに行く人ばかりらしい。
横をすり抜けていくクラスメイトたちを横目に、通学バッグを肩にかけて、窓から夕焼け空を眺めた。
学校を出たら全てが終わってしまいそうで、悲しい。
楽しいとか、嬉しいとか、私が知っている言葉で表現できないほどの時間だった。
どれほど時間が経っただろうか。
「おい」
低い声が後ろから聞こえて振り返ると、バッグを肩にかけて真っ直ぐ私の目を見る津神くんがいた。
「あ、戻ってきてたんですね。さっきまで姿が見えなかったから」
「さっき起きた」
歌の練習以外で津神くんとこうやって2人っきりで話すのはファミレスで私の態度を指摘されて以来だろうか。
影がちょうど津神くんの顔に当たって、その表情ははっきり見えない。
「あの、遅くなっちゃったんですけど、昨日は助けに来てくださってありがとうございました。
それと、これまでたくさん迷惑かけてすみませんでした」
深く頭を下げたけど、返事は返ってこない。
津神くんの気持ちは本当に推し量るのが難しい。
「後からみんなにも話すつもりなんですけど、私行政を頼ってみようと思います。
今日はこの後児童相談所に行ってみようかなって。
どうせ意味がないって最初から諦めてたけど、やってみないとわからないですよね。
ちゃんと自分の口で助けを求めてみることにします。
だから、昨日私の家に話に行くって言ってくれてたけど、あの、もう大丈夫ですから」
沈黙に耐えきれず、あとでレオたちと一緒に話そうと思っていた話をひと足先に津神くんに打ち明けた。
しかし、
「ヘラヘラすんなよ」
鋭い目線を私に向けて津神くんは言った。
最後まで、津神くんと心通わせることはできなかったなと落ち込みつつ、もう一度頭を下げた。
「あ、す、すみません」
「俺は、」
津神くんが何かを言いかけた時、教室のドアが勢いよく開いた。
そして、足音を大きく鳴らして、「アイー!」と叫びながら、メルが一目散に駆け込んできた。
津神くんは一瞬のうちにげっそりとした表情に変わり、メルの方を見ている。
そして、津神くんに掴まれている私の腕を目視したメルはギロリと津神くんを睨みつけ、大股で近づいてきた。
「何してんのよ」
津神くんは舌打ちをして、睨みつけるメルから視線を逸らした。
「お前に関係ないだろ」
「ありますぅー、アイ何かされたの?」
「いっ、いや!何もされないよ。それよりメルどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、今日は「「打ち上げ」だー!」
メルとぴったり声を揃えて叫んだのは、叫ぶと同時に教室に滑り込んできたレオだった。
よく見ると後ろにタカさんを引き連れてきている。
「う、打ち上げ?」
何も聞いていなかったので、驚いて素っ頓狂な声で繰り返すと、レオは満面の笑みで大きく頷いた。
「そう!ばあちゃんがご馳走用意してるからみんなで来いだってさ」
目を輝かせて、子どものように落ち着きのないレオ。
今日一日我慢することが多かった反動だろうか。
「おばあさんが?え、でも私」
「なんか予定でもあるのか?」
言い淀むと、レオは即座に不満げな顔をして問い詰めてきた。
「あ、えっと」
津神くんの顔を見たが、プイッと視線を背けられる。
まあ、打ち上げに参加してからみんなに話すのでもいいだろう。
雰囲気を壊すのは申し訳ない。
思い直して、首を振った。
「いや何でもないよ。
今日も押しかけちゃっていいのかな」
「いいよいいよ。こいつらなんて呼んでもないのにしょっちゅう来るしな」
「はあ?誰のこと?」
放っとくとまた小競り合いを始める2人に苦笑いをしていると、突っ込む気力も失ったのか、タカさんが「ほら行くぞー」と言いながら、疲れた顔で教室を出た。
「ほら、アイ行こ!」と、メルに腕を組まれて、タカさんの後ろをついて私たちも教室を出る。
後ろをチラリと見ると、レオに引っ張られて津神くんもついてきている。
『俺、』の後何を言いかけていたんだろう。
これまでを振り返るとあまりいい予感は浮かばないけど、あとで時間があれば聞き直したい。