キミと歌う恋の歌
またこの湯船に浸かれるとは思わなかった。
広い湯船にどっかりと腰をかけると、温もりが一気に体を包み込んで、あまりの気持ちよさに天井を見上げて目を閉じた。
一昨日から昨日までの怒涛の二日間を頭に思い起こすと、本当に現実なのだろうかと疑ってしまう。
だけど、今私がこの広くて温かいお風呂にいることが、それが真実である何よりの証拠だ。
おばあさんの言葉を思い出す。
本当にここに住んでいいんだろうか。
とにかく、早くおばあさんとちゃんとお話をしなくちゃ。
本当にそれでいいと言ってもらえるのなら、私はどれだけ頭を下げても足りない。
そうは思っているのだが、なかなか湯船は私を離してくれなくて、結局立場を弁えず長風呂をしてしまった。
お風呂から上がって、おばあさんが買ってくれたと言う下着とメルの貸してくれた服に袖を通した。
下着はもう長年同じものをボロボロになりながら使っていたので、新品というだけで胸が躍ったし、Tシャツからはメルの甘い匂いがほんのりした。
髪を乾かしてから脱衣所を出て、恐る恐る居間のドアを開ける。
なんだかんだ、起きてから1時間以上経っている気がするからもう15時頃だ。
こんな時間に起きてお風呂に入っていると言う事実が信じられない。
さすがにみんな呆れているんじゃないか。
そう思いながらドアを開けると、大声が中から飛び出してきた。
「ああああちょっとタカちゃん何してんの!負けちゃったじゃん〜」
「ごめんって。ちょっと指が滑っちゃった」
「残念でした。これで俺とソウジの5連勝〜。お前ら来週購買のパン奢りな」
「お願い!もう一回だけ」
「もう一回したところで無駄だろ。お前らが組んだ時点で負け確定」
「…ソウジ歯ぁ食いしばりなよ」
「だーーだめだめ殴るなメル」
騒々しい声はテレビの前にぎゅーっと集まっている4人のもので、何やらテレビに繋がっているゲーム機で遊んでいるみたいだ。
学校の彼らは大人びていて、纏う空気から違っているのに、こうやって見ると同世代の人たちと何も変わらない純粋な学生そのもので思わず微笑んでしまう。
津神くんに殴りかかろうとするメルを必死にタカさんが食い止めているところで、レオがこちらに気付き笑顔を浮かべた。
「あ、アイ!おはよう。アイもする?ゲーム」
私はお風呂の中で最初に何を話せばいいだろうとずっと悩んでいたと言うのに、あっさりとしたその物言いに拍子抜けしてしまう。
やっぱり昨日のことは夢だろうか。
「え、い、いや。ゲームは私できないから」
「やってみれば?絶対メルとタカよりは上手いと思うけど」
「レオ、なんか言ったー?ねえアイ私とチーム組もうよ!」
「やめといた方がいいぞ」
拳を振り上げたまま、レオをじとっと睨み、私を誘うメルに、また冷たい一言を放つ津神くん。
至っていつもの彼らの様子だ。
「あ、あの、おばあさんは、」
「あー今日ばあちゃん夜用事があるらしくてもう家出たよ」
レオの返事に愕然とする。
まだ何も、お礼もしっかり言えていないのに。
なんて礼儀知らずなことをしてしまっているんだろう。
心臓はバクバクと音を立てるが、誰もそれに気づく様子はない。
「だから、今日はみんなで外食しようってことになったんだけどさ、アイ外出れる?きつくない?」
レオの気遣ってくれる言葉に思わず首を振る。
「え、それはもう全然あんなに寝てしまったので」
「お、よかった。俺も昨日は爆睡したよ」
「あ、あの、昨日は本当にご迷惑をおかけしてしまって、」
「何が?」
「タクシーの中でそのまま寝ちゃって」
「あー全然いいよ。疲れてたんだから仕方ないって。タカが余裕で運んでたよ」
「え…すみません。タカさん」
「やー全然だよ。むしろ勝手に触っちゃってごめんなー」
タカさんの方に頭を下げたが、タカさんは手を顔の前でぶんぶんと振って、逆に申し訳なさそうな表情をしてそういった。
タカさんは本当に男女共に人気があるのがよくわかる。
ものすごく親切なのに、それを恩着せがましく感じさせずにいなしてくれる。
「…ありがとうございます。あの、みんな本当に一昨日から昨日まで本当に迷惑かけてごめんなさい。それと、ありがとう」
今、このタイミングで言うことじゃなかったのかもしれないけど、とにかく早く謝罪とお礼をしたかった。
みんなが信じられないくらい優しいことはわかっているけど、でも全部してもらって当然のことなんかじゃなかった。
みんなにもそれぞれリスクを負ったり、面倒になるのにも関わらず、何も言わずに、最後まで私に付き合ってくれた。
どれだけ感謝の言葉を並べても足りない。
深々と頭を下げると、部屋の中にひととき沈黙が流れた。
広い湯船にどっかりと腰をかけると、温もりが一気に体を包み込んで、あまりの気持ちよさに天井を見上げて目を閉じた。
一昨日から昨日までの怒涛の二日間を頭に思い起こすと、本当に現実なのだろうかと疑ってしまう。
だけど、今私がこの広くて温かいお風呂にいることが、それが真実である何よりの証拠だ。
おばあさんの言葉を思い出す。
本当にここに住んでいいんだろうか。
とにかく、早くおばあさんとちゃんとお話をしなくちゃ。
本当にそれでいいと言ってもらえるのなら、私はどれだけ頭を下げても足りない。
そうは思っているのだが、なかなか湯船は私を離してくれなくて、結局立場を弁えず長風呂をしてしまった。
お風呂から上がって、おばあさんが買ってくれたと言う下着とメルの貸してくれた服に袖を通した。
下着はもう長年同じものをボロボロになりながら使っていたので、新品というだけで胸が躍ったし、Tシャツからはメルの甘い匂いがほんのりした。
髪を乾かしてから脱衣所を出て、恐る恐る居間のドアを開ける。
なんだかんだ、起きてから1時間以上経っている気がするからもう15時頃だ。
こんな時間に起きてお風呂に入っていると言う事実が信じられない。
さすがにみんな呆れているんじゃないか。
そう思いながらドアを開けると、大声が中から飛び出してきた。
「ああああちょっとタカちゃん何してんの!負けちゃったじゃん〜」
「ごめんって。ちょっと指が滑っちゃった」
「残念でした。これで俺とソウジの5連勝〜。お前ら来週購買のパン奢りな」
「お願い!もう一回だけ」
「もう一回したところで無駄だろ。お前らが組んだ時点で負け確定」
「…ソウジ歯ぁ食いしばりなよ」
「だーーだめだめ殴るなメル」
騒々しい声はテレビの前にぎゅーっと集まっている4人のもので、何やらテレビに繋がっているゲーム機で遊んでいるみたいだ。
学校の彼らは大人びていて、纏う空気から違っているのに、こうやって見ると同世代の人たちと何も変わらない純粋な学生そのもので思わず微笑んでしまう。
津神くんに殴りかかろうとするメルを必死にタカさんが食い止めているところで、レオがこちらに気付き笑顔を浮かべた。
「あ、アイ!おはよう。アイもする?ゲーム」
私はお風呂の中で最初に何を話せばいいだろうとずっと悩んでいたと言うのに、あっさりとしたその物言いに拍子抜けしてしまう。
やっぱり昨日のことは夢だろうか。
「え、い、いや。ゲームは私できないから」
「やってみれば?絶対メルとタカよりは上手いと思うけど」
「レオ、なんか言ったー?ねえアイ私とチーム組もうよ!」
「やめといた方がいいぞ」
拳を振り上げたまま、レオをじとっと睨み、私を誘うメルに、また冷たい一言を放つ津神くん。
至っていつもの彼らの様子だ。
「あ、あの、おばあさんは、」
「あー今日ばあちゃん夜用事があるらしくてもう家出たよ」
レオの返事に愕然とする。
まだ何も、お礼もしっかり言えていないのに。
なんて礼儀知らずなことをしてしまっているんだろう。
心臓はバクバクと音を立てるが、誰もそれに気づく様子はない。
「だから、今日はみんなで外食しようってことになったんだけどさ、アイ外出れる?きつくない?」
レオの気遣ってくれる言葉に思わず首を振る。
「え、それはもう全然あんなに寝てしまったので」
「お、よかった。俺も昨日は爆睡したよ」
「あ、あの、昨日は本当にご迷惑をおかけしてしまって、」
「何が?」
「タクシーの中でそのまま寝ちゃって」
「あー全然いいよ。疲れてたんだから仕方ないって。タカが余裕で運んでたよ」
「え…すみません。タカさん」
「やー全然だよ。むしろ勝手に触っちゃってごめんなー」
タカさんの方に頭を下げたが、タカさんは手を顔の前でぶんぶんと振って、逆に申し訳なさそうな表情をしてそういった。
タカさんは本当に男女共に人気があるのがよくわかる。
ものすごく親切なのに、それを恩着せがましく感じさせずにいなしてくれる。
「…ありがとうございます。あの、みんな本当に一昨日から昨日まで本当に迷惑かけてごめんなさい。それと、ありがとう」
今、このタイミングで言うことじゃなかったのかもしれないけど、とにかく早く謝罪とお礼をしたかった。
みんなが信じられないくらい優しいことはわかっているけど、でも全部してもらって当然のことなんかじゃなかった。
みんなにもそれぞれリスクを負ったり、面倒になるのにも関わらず、何も言わずに、最後まで私に付き合ってくれた。
どれだけ感謝の言葉を並べても足りない。
深々と頭を下げると、部屋の中にひととき沈黙が流れた。