キミと歌う恋の歌
学校の最寄駅で降りると、途端に周りからの視線を強く感じ出す。
文化祭が終わってすぐの登校日は本当に人だかりですごいことになっていたが、一週間経つとようやくそれも落ち着いた。
それでも5人で歩いていると、どうしたって注目を浴びてしまって背中が痛い。
4人はこれが通常のようで気にもならないらしいが、これまで誰も気に留めない日陰で生きてきた人間としては慣れる気がしない。
今すぐに顔を隠して隅っこに逃げたくなる。
学校へ到着し、みんなと別れて教室へ入る。
「アイちゃんおはよう〜」
「おはよう!」
近くの席で友達と歓談していた結城さんに挨拶を返して、自分の席に向かう。
今日はだいぶ自然に挨拶できた気がする。
この一週間でテストシフトに切り替わったこと以外に、もう一つ大きく変化したことがある。
それは、クラスで席替えがあったことだ。
文化祭が終わってすぐ、担任の先生が急に思い立ったように席替えをすると言い出し、すぐに実行された。
結果私の席はお気に入りの窓際のポジションから変更なかったのだが、後ろの席がなんとソウジになって、より一層ソウジのファンの子達から睨まれることとなった。
すでにソウジはバッグを荷物がけにかけて、頬杖をついて外を眺めている。
私と同じくらいにクラスに馴染んでいないソウジはクラスの端っこのこの席がすごく気に入ったようで、ほとんど席を立つことがない。
前に比べたら少しだけソウジと距離が近くなったと思ってはいるけど、やっぱりずっと後ろにいられるとなんだか圧迫感を感じて落ち着かない。
1時間目は英語だ。
いつも通り教科書を広げて準備をしていたが、担当の先生は勢いよくドアを開けて入ってくると、突拍子もないことを言い出した。
「今日は抜き打ちの単語小テストをしまーす。なので、教科書類は一旦全部閉じてくださいねー」
一瞬教室が静まりかえったのち、大ブーイングが巻き起こった。
クラスで目立つタイプの子達が「それは許されない」と口々に文句を言っている。
しかし、長年の貫禄がある先生は、断固反論は受け入れないという態度で教科書を閉じるのを急かしてくる。
「テスト範囲なんだからもうばっちりでしょうがー。さっさと片付けなさい」
私は彼らのように声に出して逆らったりはできないので、大人しく広げた教科書を閉じてはいるものの、胸はどくどくと波打っていた。
ど、どうしよう。
勉強はちゃんとしているけど、できる気がしない。
記憶の中から覚えているだけの単語を引っ張り出して、頭の中で反復して唱える。
結局クラスメイトたちの必死の抵抗は叶わず数分後にテストは配布され、時間を限られてスタートした。
問題を眺めた私はひどく絶望した。
どうして何一つ頭に浮かばないんだろう、。
あんなにやったというのに。
記憶の中に微かにありはするのだが、焦りで一つも正確に思い浮かばない。
本当に私は要領が悪いんだろうなと、気づきたくもないことに気付かされる。
結局制限時間ギリギリまで必死に絞り出したあったような、なかったような謎の単語を書き殴った。
「はーい、じゃあ隣の人と交換して採点するわよ。窓際は前後でね」
体中の熱が急激に下がっていく。
恐る恐る私の列の一番前から数を数えてみたが、どう数えても私の採点相手はソウジだ。
「おい、さっさと渡せよ」
テストを握りしめて縮こまっていると、後ろから苛立つソウジの声が聞こえた。
仕方なく振り返って、テストを裏返しにしたままで渡し、ソウジの答案を受け取る。
すでに先生は黒板に正解を書き始めていて、周りは採点を始めている。
私も筆箱から赤ペンを取り出して、黒板と答案を見比べ始めた。
これも正解、これも、これも、
そんな調子で丸をつけていくと、結果問答無用の満点だった。
さすがのソウジだと感心する余裕はあまりなかった。
その正解単語を自分で書いた記憶は一切なかったからだ。
「お前…やばいな」
答案を返そうと振り返ると、頬耐えをついて、ボールペンを片手で弄ぶソウジが呆れた表情で私をちらりと見た。
情けなくて泣きそうになる。
「ご、ごめんなさい、せっかく教えてくれてるのに」
「本当、メルといい勝負だな」
でかでかとしたバツのマークが散りばめられた答案を私によこしながらソウジがそう言った。
「ー…」
何も言えずに黙り込んだが、ソウジは一つため息をついて、「今日は英語やるか」と一言言った。
「え…」
「なんだよ、やる気なくしたか」
ジロリと睨まれて、慌てて首を振って否定をする。
「い、いやもう呆れて教えてくれないかなって」
「…んなことしたらまたレオとタカがうっせーからな。ああ一番うるせーのはメルか」
言い訳のようにそう言うけど、紛れもない彼の優しさだ。
胸がじんと熱くなると同時に、さらに力を入れてやらねばと気持ちが引き締まる。
「…ありがとうっ…!私頑張る。」
「…はいはい」
少しオーバー気味になってしまった私の決意表明にソウジは肩をすくめてそう返事をした。
文化祭が終わってすぐの登校日は本当に人だかりですごいことになっていたが、一週間経つとようやくそれも落ち着いた。
それでも5人で歩いていると、どうしたって注目を浴びてしまって背中が痛い。
4人はこれが通常のようで気にもならないらしいが、これまで誰も気に留めない日陰で生きてきた人間としては慣れる気がしない。
今すぐに顔を隠して隅っこに逃げたくなる。
学校へ到着し、みんなと別れて教室へ入る。
「アイちゃんおはよう〜」
「おはよう!」
近くの席で友達と歓談していた結城さんに挨拶を返して、自分の席に向かう。
今日はだいぶ自然に挨拶できた気がする。
この一週間でテストシフトに切り替わったこと以外に、もう一つ大きく変化したことがある。
それは、クラスで席替えがあったことだ。
文化祭が終わってすぐ、担任の先生が急に思い立ったように席替えをすると言い出し、すぐに実行された。
結果私の席はお気に入りの窓際のポジションから変更なかったのだが、後ろの席がなんとソウジになって、より一層ソウジのファンの子達から睨まれることとなった。
すでにソウジはバッグを荷物がけにかけて、頬杖をついて外を眺めている。
私と同じくらいにクラスに馴染んでいないソウジはクラスの端っこのこの席がすごく気に入ったようで、ほとんど席を立つことがない。
前に比べたら少しだけソウジと距離が近くなったと思ってはいるけど、やっぱりずっと後ろにいられるとなんだか圧迫感を感じて落ち着かない。
1時間目は英語だ。
いつも通り教科書を広げて準備をしていたが、担当の先生は勢いよくドアを開けて入ってくると、突拍子もないことを言い出した。
「今日は抜き打ちの単語小テストをしまーす。なので、教科書類は一旦全部閉じてくださいねー」
一瞬教室が静まりかえったのち、大ブーイングが巻き起こった。
クラスで目立つタイプの子達が「それは許されない」と口々に文句を言っている。
しかし、長年の貫禄がある先生は、断固反論は受け入れないという態度で教科書を閉じるのを急かしてくる。
「テスト範囲なんだからもうばっちりでしょうがー。さっさと片付けなさい」
私は彼らのように声に出して逆らったりはできないので、大人しく広げた教科書を閉じてはいるものの、胸はどくどくと波打っていた。
ど、どうしよう。
勉強はちゃんとしているけど、できる気がしない。
記憶の中から覚えているだけの単語を引っ張り出して、頭の中で反復して唱える。
結局クラスメイトたちの必死の抵抗は叶わず数分後にテストは配布され、時間を限られてスタートした。
問題を眺めた私はひどく絶望した。
どうして何一つ頭に浮かばないんだろう、。
あんなにやったというのに。
記憶の中に微かにありはするのだが、焦りで一つも正確に思い浮かばない。
本当に私は要領が悪いんだろうなと、気づきたくもないことに気付かされる。
結局制限時間ギリギリまで必死に絞り出したあったような、なかったような謎の単語を書き殴った。
「はーい、じゃあ隣の人と交換して採点するわよ。窓際は前後でね」
体中の熱が急激に下がっていく。
恐る恐る私の列の一番前から数を数えてみたが、どう数えても私の採点相手はソウジだ。
「おい、さっさと渡せよ」
テストを握りしめて縮こまっていると、後ろから苛立つソウジの声が聞こえた。
仕方なく振り返って、テストを裏返しにしたままで渡し、ソウジの答案を受け取る。
すでに先生は黒板に正解を書き始めていて、周りは採点を始めている。
私も筆箱から赤ペンを取り出して、黒板と答案を見比べ始めた。
これも正解、これも、これも、
そんな調子で丸をつけていくと、結果問答無用の満点だった。
さすがのソウジだと感心する余裕はあまりなかった。
その正解単語を自分で書いた記憶は一切なかったからだ。
「お前…やばいな」
答案を返そうと振り返ると、頬耐えをついて、ボールペンを片手で弄ぶソウジが呆れた表情で私をちらりと見た。
情けなくて泣きそうになる。
「ご、ごめんなさい、せっかく教えてくれてるのに」
「本当、メルといい勝負だな」
でかでかとしたバツのマークが散りばめられた答案を私によこしながらソウジがそう言った。
「ー…」
何も言えずに黙り込んだが、ソウジは一つため息をついて、「今日は英語やるか」と一言言った。
「え…」
「なんだよ、やる気なくしたか」
ジロリと睨まれて、慌てて首を振って否定をする。
「い、いやもう呆れて教えてくれないかなって」
「…んなことしたらまたレオとタカがうっせーからな。ああ一番うるせーのはメルか」
言い訳のようにそう言うけど、紛れもない彼の優しさだ。
胸がじんと熱くなると同時に、さらに力を入れてやらねばと気持ちが引き締まる。
「…ありがとうっ…!私頑張る。」
「…はいはい」
少しオーバー気味になってしまった私の決意表明にソウジは肩をすくめてそう返事をした。