キミと歌う恋の歌
昼休み、メルが教室に来るのを勉強しながら待っていると、メルと一緒にレオが教室に入ってきた。
機嫌の良さそうな様子にどうしたのかと見ていると、「ちょっと今から会議!いつもんとこな!」とだけ言って、自分はタカさんを呼びに行ってくると教室を出て行った。
メルも何も聞かされていないらしく、首を傾げていた。
それでもとにかく行ってみようと3人で第一音楽室まで向かって2人が到着するのを待っていた。
「待たせたなー!」
突然ガチャリとドアが重い音を立てて開き、タカさんを引きずってレオが入ってきた。
タカさんはレオの手から離れ、不満げにどかっと床に座り込む。
「一体何なんだよ!何も言わずに拉致しやがって」
「重大発表があるんだよ。お前だけに先に言うわけにはいきいだろ」
レオは本当にご機嫌で、にこにこと笑っている。
「どうしたんだよ」
壁にもたれかかって腕を組んだソウジが聞くと、満を持してといった様子でレオが勢いよく言った。
「ライブハウスへの出演が決まりました!」
その場から音が消える。
沈黙の後、レオ以外の4人の声が冗談のように揃った。
「「「「は?」」」」
「何だよお前ら仲良いなー」
レオは満足そうな表情で私たちの顔を見まわした。
当の私たちはお互いに顔を見合わせるが、それからの言葉が続かない。
ようやく代表するようにタカさんが第一声を発した。
「いつなんだ?それは。いや、てかどこのライブハウスだよ。いつのまにそんな話進めてたんだよ、ちょっとは俺らに相談しろよ。何でお前はいっつも事後報告なんだよ!」
初めは冷静だったタカさんだったが、だんだん怒りが止まらなくなったのか最後はほとんど怒声だった。
タカさんがここまで負の感情を見せるのは珍しい。
だが、レオはきょとんとしてタカさんを見ている。
どうしてタカさんが怒っているのか、いやそもそも怒っているということにすら気づいていないみたいだ。
「どうしたんだよ、タカ。そんな興奮して。えっと、ライブ当日は3週間後な!」
今度こそ全員で絶句する。
「さ、3週間後って。お前来週テストあるの忘れたのか?」
ソウジもさすがにポーカーフェイスを崩して、動揺した表情を浮かべている。
「忘れてねえよ。テスト終わってからでも一週間半あるじゃん。それに、連休あるし泊まり込みで練習すれば何とかなるだろ」
「だから、それを何で前もって俺らに相談しないんだよ。お前1人のバンドじゃないんだぞ?」
ため息をつきながらタカさんが諭すような口ぶりでそう話す。
力任せに怒っても意味はないと思ったみたいだ。
ちなみに私はというと、何か喋ることもできず、言い合いの様子をオロオロと見つめているだけだった。
私の目下の心配事はテストだけだと思っていたのだが、とんでもないことになりそうだ。
すでに胃がキリキリと痛い。
「いやでもさ、昨日連絡が来て決まったんだよ。出ないなんて選択肢ないだろ?だからみんな揃って報告した方がいいかなと思って」
レオはようやく自分の分が悪いことに気づいたのか、唇を尖らせて不満げにそう話した。
「連絡が来たってどういうことだよ」
「ほら、俺が中学の時何度かライブに助っ人で出させてもらってたライブハウスのオーナーがさ、この前の文化祭の動画を見たらしくて、連絡してきたんだ。
なんか、出演予定だったバンドのメンバーが事故で怪我したらしくて穴埋めを探してるらしくて。
出れないかって」
「…ん、?動画?」
「あ、見てない?俺のアカウントでこの前の動画演奏のとこだけカットして投稿したんだよ」
「…それも全く聞いてないぞ」
「再生回数すごいぞ。見るか?」
もう何度目かわからないため息をつくタカさんに、意気揚々とレオはスマホを操作して動画を見せ始めた。
私も気になってその画面を覗き込み、隣にソウジもずいっと入り込んできたが、メルだけは動かず立ち尽くしていた。
「それ、顔はっきり見えるの?」
メルが一言ポツリと言った。
顔を上げて見ると、いつも表情豊かなメルが全く読めない表情をしていた。
怒りなのか、呆れなのか、動揺なのか。
何も触れられずにただ見つめていると、レオが動画に視線を向けたまま「この前全部見ただろ。大丈夫だよ」と答えた。
だが、メルは表情を変えない。
空気の悪さに気づいたのか、タカさんが動画を見るのを一旦やめて、立ち上がった。
メルの元に近寄り、肩に手を置いて「大丈夫か?」と尋ねた。
メルが答えずに黙りこくっていると、レオがまるで釘を刺すように言った。
「そんなこと気にしてたら、デビューなんて出来ないぞ」
そう言われたメルはそばで見ても痛くなるほどに唇を噛んで、無言でドアの方にスタスタと歩いて行った。
「め、メル!」
思わず名前を呼んで追いかけると、メルは振り返ってにこりと微笑んだ。
「ちょっと、寝不足で頭が痛いから保健室で寝てくる。心配しないでいいからね」
その口調は平然としていた。
そして、そのままメルはドアを開けて、出ていってしまった。
だけど、あの笑顔や声色は絶対に本心ではなかった。
そんなのわかっていたけど、まるで壁を作られて、ここからは踏み込んでくるなと言われたようでそれ以上動けなかった。
機嫌の良さそうな様子にどうしたのかと見ていると、「ちょっと今から会議!いつもんとこな!」とだけ言って、自分はタカさんを呼びに行ってくると教室を出て行った。
メルも何も聞かされていないらしく、首を傾げていた。
それでもとにかく行ってみようと3人で第一音楽室まで向かって2人が到着するのを待っていた。
「待たせたなー!」
突然ガチャリとドアが重い音を立てて開き、タカさんを引きずってレオが入ってきた。
タカさんはレオの手から離れ、不満げにどかっと床に座り込む。
「一体何なんだよ!何も言わずに拉致しやがって」
「重大発表があるんだよ。お前だけに先に言うわけにはいきいだろ」
レオは本当にご機嫌で、にこにこと笑っている。
「どうしたんだよ」
壁にもたれかかって腕を組んだソウジが聞くと、満を持してといった様子でレオが勢いよく言った。
「ライブハウスへの出演が決まりました!」
その場から音が消える。
沈黙の後、レオ以外の4人の声が冗談のように揃った。
「「「「は?」」」」
「何だよお前ら仲良いなー」
レオは満足そうな表情で私たちの顔を見まわした。
当の私たちはお互いに顔を見合わせるが、それからの言葉が続かない。
ようやく代表するようにタカさんが第一声を発した。
「いつなんだ?それは。いや、てかどこのライブハウスだよ。いつのまにそんな話進めてたんだよ、ちょっとは俺らに相談しろよ。何でお前はいっつも事後報告なんだよ!」
初めは冷静だったタカさんだったが、だんだん怒りが止まらなくなったのか最後はほとんど怒声だった。
タカさんがここまで負の感情を見せるのは珍しい。
だが、レオはきょとんとしてタカさんを見ている。
どうしてタカさんが怒っているのか、いやそもそも怒っているということにすら気づいていないみたいだ。
「どうしたんだよ、タカ。そんな興奮して。えっと、ライブ当日は3週間後な!」
今度こそ全員で絶句する。
「さ、3週間後って。お前来週テストあるの忘れたのか?」
ソウジもさすがにポーカーフェイスを崩して、動揺した表情を浮かべている。
「忘れてねえよ。テスト終わってからでも一週間半あるじゃん。それに、連休あるし泊まり込みで練習すれば何とかなるだろ」
「だから、それを何で前もって俺らに相談しないんだよ。お前1人のバンドじゃないんだぞ?」
ため息をつきながらタカさんが諭すような口ぶりでそう話す。
力任せに怒っても意味はないと思ったみたいだ。
ちなみに私はというと、何か喋ることもできず、言い合いの様子をオロオロと見つめているだけだった。
私の目下の心配事はテストだけだと思っていたのだが、とんでもないことになりそうだ。
すでに胃がキリキリと痛い。
「いやでもさ、昨日連絡が来て決まったんだよ。出ないなんて選択肢ないだろ?だからみんな揃って報告した方がいいかなと思って」
レオはようやく自分の分が悪いことに気づいたのか、唇を尖らせて不満げにそう話した。
「連絡が来たってどういうことだよ」
「ほら、俺が中学の時何度かライブに助っ人で出させてもらってたライブハウスのオーナーがさ、この前の文化祭の動画を見たらしくて、連絡してきたんだ。
なんか、出演予定だったバンドのメンバーが事故で怪我したらしくて穴埋めを探してるらしくて。
出れないかって」
「…ん、?動画?」
「あ、見てない?俺のアカウントでこの前の動画演奏のとこだけカットして投稿したんだよ」
「…それも全く聞いてないぞ」
「再生回数すごいぞ。見るか?」
もう何度目かわからないため息をつくタカさんに、意気揚々とレオはスマホを操作して動画を見せ始めた。
私も気になってその画面を覗き込み、隣にソウジもずいっと入り込んできたが、メルだけは動かず立ち尽くしていた。
「それ、顔はっきり見えるの?」
メルが一言ポツリと言った。
顔を上げて見ると、いつも表情豊かなメルが全く読めない表情をしていた。
怒りなのか、呆れなのか、動揺なのか。
何も触れられずにただ見つめていると、レオが動画に視線を向けたまま「この前全部見ただろ。大丈夫だよ」と答えた。
だが、メルは表情を変えない。
空気の悪さに気づいたのか、タカさんが動画を見るのを一旦やめて、立ち上がった。
メルの元に近寄り、肩に手を置いて「大丈夫か?」と尋ねた。
メルが答えずに黙りこくっていると、レオがまるで釘を刺すように言った。
「そんなこと気にしてたら、デビューなんて出来ないぞ」
そう言われたメルはそばで見ても痛くなるほどに唇を噛んで、無言でドアの方にスタスタと歩いて行った。
「め、メル!」
思わず名前を呼んで追いかけると、メルは振り返ってにこりと微笑んだ。
「ちょっと、寝不足で頭が痛いから保健室で寝てくる。心配しないでいいからね」
その口調は平然としていた。
そして、そのままメルはドアを開けて、出ていってしまった。
だけど、あの笑顔や声色は絶対に本心ではなかった。
そんなのわかっていたけど、まるで壁を作られて、ここからは踏み込んでくるなと言われたようでそれ以上動けなかった。