キミと歌う恋の歌
「はあ、一旦この話は保留な。アイ、俺が行くよ」

タカさんが私の横をすり抜けて教室を出てメルを追っていき、3人だけが取り残された。

「ったく」

レオは気に入らない様子だったが、ソウジが珍しく宥めるように話し出した。


「さすがに今回はお前が悪いと思うぞ」


「なんだよ、ソウジ。ライブだぞ?嬉しくないのかよ。アイもさ」


突然私にも目線が向き、あわあわと声を洩らしていると、ソウジがため息をついた。


「嬉しいけど、もっと相談しろっつってんだよ。
突然決まったとか言われても驚くだろ。

まあもういいけどさ、どうすんだよ。演目は文化祭と一緒か?何分枠もらってんだよ」


「だいたい20分くらいだって。いやカバーはやらない」


「やらないっつったって、オリジナルは一曲しか、…まさかお前」

ソウジがとんでもないことに気づいてしまったという様子でだんだんと目を見開いた。


「また曲を作る。この前ちゃんと成功したんだからあと3曲くらい余裕だろ」


「お前のその自信はどこからくるわけ?」


「曲なんていくらでも作れるもん。テスト終わったらすぐに練習に入れる状態にしとけば何とかなるだろ」


「歌詞は?」


「それはもちろんアイが」


「顔死んでるぞこいつ。おい、生きてるか」


話はしっかり頭に入ってきていたのだが、途中からその内容でショックを受けすぎて一瞬意識が飛んでしまっていた。

ソウジから近くで大きな声で呼ばれて、意識を取り戻す。


「アイ!歌詞また書くだろ?」


キラキラと輝く目で正面から見つめられて、ついそこから視線を逸らしたくなる。


「い、一週間で?」


声を上擦らせながら尋ねると、レオは当然と言った様子で大きく頷いた。


「無事歌詞ができたとしても、そん時はこいつは赤点取るだろうな」


何も答えられない私の代わりにソウジが冷たくそう言った。

だが、その助け舟が今は心から有難い。


「え、そんなにアイ勉強やばいのか?」


ストレートな言葉が胸をぐさりと刺す。


レオはソウジほどでは無いけど、容量はすこぶる良く、対して勉強せずともある程度は出来てしまうらしい。

それに音楽の天才で、誰よりも音楽を深く愛するレオにとって作曲することなんて息をするみたいに当然のことでテストがあることなんて関係ないんだろう。


だけど、私はそういうわけにはいかない。


一つのことだって必死に必死にやってなんとかなるレベルなのだ。
いくら好きなことでも同時並行は難しい。

それに私だってさすがに人前で披露する歌詞を投げやりなものにはしたくない、くらいのプライドはある。
ちゃんと自分が納得できるものを作りたい。


「つ、作りたい気持ちは山々なんだけど、べ、勉強が、私本当に馬鹿だから」


そう言うと、レオは無言で唇を尖らせた。


無言の空間に居た堪れず、私もこのまま部屋から逃げ出してしまおうかと衝動に刈られた時、ソウジが話し出した。


「休み時間も徹底的に俺が勉強教えてやる。それで余裕ができたら作詞もやってみる。できなかった時はそん時はそん時だ。大人しくカバーで出演する。
それでいいだろ」


「え、い、いいの?」


「仕方ねえだろ。そうでもしねえとこいつ絶対諦めねえよ」


ソウジが呆れた顔でレオを顎で指して言った。

当のレオはパアッと顔を輝かせている。


「レオはそれでも、いい?」


恐る恐る聞くと、レオはぐっと私の両手を掴んで「いい!」と頷いた。


突然近づいた顔にびっくりして心臓がドクドクとうるさくなる。


「それと、一曲は俺が作る」


「「え、」」


今度は私とレオの声が揃う。


「別にいいだろ。俺も曲作りたい」


仏頂面にそぐわない素直すぎる言葉だ。


「ま、まあいいけど、じゃあ俺が2曲でソウジが1曲な。い、1曲で我慢しろよ。これ以上譲らないからな」


子どものようにレオがそう言うと、ソウジは軽くあしらうように「わかったわかった」と返事をした。


そして「じゃあもう教室戻るぞ。お前は一旦タカとメルに謝っとけよ」とレオに向かって言って、立ち上がった。


まとめ役はタカさんやレオが担うことが多いし、先導役はメルが担いがちだから、キビキビと動くソウジの姿が珍しい。

でもやっぱりこうやってすぐに動けるところを見ると、興味なさそうに見えてちゃんとみんなのこと見てるんだろうなと感心してしまう。

私はこのメンバーの中で一体何ができるんだろう。

いや、今は余計なことは考えず、とにかく勉強することと歌詞を完成させることだけだ。


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